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私はふと青い空に浮かぶ月を見つけた。
私には彼氏がいて名前を冬夜とうやといった。
冬夜は髪が薄い栗毛色で瞳が青い。肌も色白だ。そのせいか今見ている青い空に浮かぶ月を連想させる。
「……聖月みづき。ぼうっとして。どうしたんだ?」
冬夜が後ろから声をかけてきた。私はゆっくりと向き直る。
「うん。ちょっとお月様を見てたんだけど」
「お月様か。あ、本当だ。白いあれだな」
冬夜が気がついたらしく月を見た。私も月を改めて眺める。ぼんやりとしか見えないけど。それでもよかった。私は夜空に輝く月も楽しみにしつつも冬夜と二人で公園の散歩を再開したのだった。
夜になり私は自宅の窓辺から夜空に燦然と輝く月を眺めた。傍らには十代の頃から飼っている猫のマーブルがいる。マーブルは今年で十歳になる雌の猫だ。毛色はグレーで目が不思議な紫色だった。
けっこう人間でいうと美人だと自分では思っている。マーブルも不思議そうに月を見ていた。 冬夜と付き合い出してから一年と半年が過ぎていた。もう彼からプロポーズされてもおかしくない。冬夜本人はどう思っているだろう。そう思いながらマーブルの頭を撫でる。ゴロゴロと喉を鳴らして気持ち良さそうにマーブルはしていた。
「……冬夜は今頃どうしているのかな」
一人でポツリと呟いた。マーブルが不意に顔を上げた。月の周りに綺麗な虹がかかっている。昼間の鮮やかなものではないが。真っ白な虹がある。それを見て私は無性に冬夜に会いたくなった。窓を閉めてカーテンも閉める。マーブルを抱っこして寝室に向かった。そのまま、眠りについたのだった。
「……おはよう。冬夜」
私がいつも通りに家を出ると冬夜がスーツ姿で門の前で待っていた。冬夜は私と同じ会社ではないが行く方向が途中まで一緒なのでよくこうやって迎えに来てくれる。
「おはよう。聖月。昨日はちゃんと眠れたか?」
「眠れたよ。私は子供じゃないから。心配されなくても大丈夫です」
「……そういう所が子供なんだよ。まあ、ケンカしててもキリがないし。行こう」
冬夜はそう言って手を差し出してきた。仕方ないと彼の手に自分の手を重ねる。そうしてゆっくりと歩き出した。
「聖月。唐突で何だけど。ちょっといいかな?」
「うん。いいけど。どうかしたの?」
冬夜は私の顔をじっと見つめる。そしておもむろに切り出した。
「……その。聖月。結婚してくれないか?」
「……え。冬夜。朝方に言わなくても。でも嬉しい」
「聖月。そいで。返事は?」
「こちらこそよろしくお願いします。私、これでも冬夜が言ってくれるの待ってたんだからね」
「そうだったのか。ごめん」
冬夜はそう言って笑った。ちょっと照れ臭いのか顔は赤い。
「……でも。急がないと遅刻するね」
「あ。本当だ。速足で行くぞ!」
冬夜は私の手を引っ張って急ぎ足で会社への道を行く。私は笑いながらも同じように急いだ。猫のマーブルに今日はちょっと高級な缶詰のキャットフードを買ってきてあげよう。そう思ったのだった。
ー完ー
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