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「お兄ちゃん! 起きて!」  どうやら妹のスズが起こしに来てくれたようだ。  しかし、タカシは頭から布団をかぶり直し、心の中で言い訳をつぶやく。 (悪いがもう少し寝かせてもらおう。俺は朝にめっぽう弱い体質で、これは仕方ないことなのだ。) 「もうちょっと寝かせて。」 「なに布団かぶってんのよ! どうせまた夜遅くまでネトゲやってたんでしょ! この廃人! 死ね!」 (なんてことを言うんだ。決して昨晩0時までと決めてネトゲをやり始めて、気づけば朝の4時になっていたから眠いんじゃない。体質的な問題なんだ。そこは重要なところなんだ。認識を改めないと。) 「スズ、違うんだよ、ぐほ!」  タカシが布団を退けて言うより早く、スズは枕を引っこ抜いて容赦無く露わになった顔面にその枕を叩きつけてくる。 「何が違うの! 毎日、毎日、妹に起こされて恥ずかしくないの!? さっさと朝ごはん作ってよね!」 「そうだね、あと10分したら起きるよ、どあ!」  再び顔面に枕が勢いよく振り下ろされた。 「そう、わかったわ、特別に今日は私が作ってあげ……」 「よし! 起きた、今すぐ兄ちゃんが作ってやるから着替えてまってろよ!」  自分が作るとスズが言いかけたので、タカシは即座にそれを遮った。  あたり前である。朝から腹を壊すのはごめんだ。  自慢ではないがスズは料理ができないのだ。できないならまだしも人体に有害な物質を作り出すので、タカシとしてはスズの将来が少し心配である。 「なんかそれはそれでムカつくわね。まぁいいわ、早く作ってよね!」  これがタカシの日常である。  タカシこと近藤高志(コンドウタカシ)は妹の鈴(スズ)と2人暮しである。  ごく普通の家庭。ではなく、かなり変わった境遇となっている。  タカシが小学4年の時に両親は他界し、その後は父方の祖父母に育てられた。  両親の死因については不明だ。教えてもらおうと親戚にき聞いたりもしてみたが誰も教えてはくれなかった。当時子供であった兄妹を気遣って詳細を伏せてくれていると今は納得することにしている。  そんな環境で両親がいないことで寂しさはあったものの、こんな境遇になってしまったからか祖父母は異常なぐらいにタカシとスズに優しかった。  両親は幸いにも多額の生命保険をかけていたようで、死後にかなりの保険金がタカシとスズに相続され、経済的な不自由はなかった。  また、極め付けには両親は住宅ローンで家を購入していて、共済保険に入っていたこともあり、両親の死後借金はチャラで、家も相続された。  ちなみに当初は不動産屋に家を手放して現金化することを勧められたが、経済的には特に困っていなかったことと、両親が残してくれた家を手放すことが寂しかったため断った。  そう言うことならと、不動産の知識があった祖父が定期借家として高校入学までの間は家を貸すことで話を進めてくれた。  家は人が住まないと朽ちてしまうとはよく言ったもので、借家にしたことで経年劣化程度でタカシの手元に戻ってきた。  そして、高校入学と同時に祖父母の元を離れて、両親が残してくれた家に住むことになった。  ここまではタカシの想定通りではあったが、想定外なことが一つ。 「お兄ちゃんご飯できた?」  最愛の妹としばしの別れとなると覚悟していたが、「お兄ちゃんが一人で生活できるわけないじゃない」とスズも中学校を転校してまでタカシについてきてくれたのだ。  嬉しい誤算ではあるが、スズは友達と離れて寂しい思いをしているに違いない。 (俺がしっかりしないと。) 「今日のネトゲは0時でちゃんと終わりにしよう。」 「あ! やっぱり昨日も遅くまでネトゲしてたんじゃない! このクズ兄!」  タカシは朝食を作りながら、そんな他愛もないやりとりに幸せを感じる。  だが、引っ越して1ヶ月経つが、先ほどの事がやはりタカシの頭からはなれない。 (スズは本当に俺についてきてよかったのだろうか。)  余計なお世話なのだろうが、心配になり聞かずにはいられなかった。 「なあ鈴、おまえ本当に転校してまでこっちに来てよかったのか? 友達と会えなくなって寂しいだろうに。」 「……」  スズは黙って目だけをタカシに向けている。  その目は鋭くタカシを睨みつけている。どうやら怒ってしまったようだ。 「おい、鈴、どうしたんだ? やっぱり……」 「うるさい!!!!」 「うわ! ごめんなさい!」 「バカ……」  タカシは反射的に謝ってしまった。  どうして怒ってしまったのかはわからないが、今後このことには触れないでおこうとタカシは小さく頷く。  その後、スズは朝食を食べ、怒ったままタカシに一言も話さず学校へ出かけていった。
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