0人が本棚に入れています
本棚に追加
1-5
スーパーマーケットでの買い物を済ませ、再び帰路につく。
タカシの家は学校からかなり離れており、自転車で1時間ほどかかってしまう。
父親が住宅地から離れたなるべく自然がある場所と駄々をこねたからだ。
しかも、距離があるだけならまだましだが、小さな丘の上にあるため、それなりな傾斜の山道を永遠と登らなければならない。
タカシならともかく、スズにとっては大変であるため、電動自転車を買い与えている。
ただし、この山道沿いには民家がなく、夜間は暗く危ないため、スズが遅くなる際はタカシがふもとまで迎えに行く。
スズはバトミントン部に所属しており、最近は県大会が近いとのことで遅くまで部活に励んでいるため、夕飯を作り終わったら鈴を迎えに行く事が日課になっていた。
気づけば、ロードレーサーのクライマー並みに足に筋肉がついている。
山道はスーパーマーケットの目の前から始まっている。
夕飯と明日の朝食分の食料を自転車のカゴに入れたら気合を入れてタカシは山道を登り始めた。
山道の中間地点には公園がぽつりとあり、大抵だれもいない。
ふもとにも公園があるため、だれもここまで登ってきて遊ぼうとは思わないのだ。
遊具も特に珍しいものは無く、ブランコと滑り台ぐらいである。
引越してから当初はこの山道に苦戦していたため、この公園でよく休んでいたが、一ヶ月もしたら足が鍛えられたようで、一度も休まず家まで辿り着けるようになっていた。
しかし、今日はフルーツポンチの材料を買い込みすぎたのか自転車のペダルが重く、無理せず公園で休むことにした。
久しぶりだが、公園は以前と変わった様子はなく、やはり誰も遊んではいない。
「誰もこんなところに遊びにこないよな」
だが、タカシはそれが好ましくも思っていた。
ヘトヘトな姿を誰かに見られるのが恥ずかしいということもあったが、なによりもタカシが内気なため人に会いたくないというのがもっともの理由である。
公園のベンチに腰掛け空を眺めながら一日を振り返り、今朝の一件が思い出される。
「柳原さんに悪いことしちゃってたな。」
友達になりたい。
他人からそんなことを言われたのはマサト以外で初めてであった。
内心は踊り出しそうなほど嬉しいが、ここ1ヶ月、彼女の好意に答えられていなかった自分が情けない。
「明日はちゃんと挨拶しよう。そこからだ!」
誰もいない公園で1人気合を入れて、明日の目標を口にした。
「にゃ〜」
「ひっ!!」
そんな無防備な状態の中で、どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。
最初のコメントを投稿しよう!