泡がはじける

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ジリジリと暑くて、アイスがよく売れるような日だった。その日もわたしと松田くんはいっしょにレジに入っていて、いつもなら雑談をするような暇もあるのだけど、めずらしく言葉を交わす隙がないような、そんな日だった。 「すいません、アタリ、交換してください」 立て続けに何人も並ばれてしまったので、ちょっと疲れぎみだったということもあったかもしれない。突然、思いがけないことを言われたので、咄嗟に反応ができなかった。 「え、と、はい。少々お待ちください」 たいていのことは、レジについてる便利なボタンや、画面での細かい説明を見たら、対処することができる。だけどあいにく、アイスのアタリ交換をするためのボタンや説明は、なかった。冷静に考えれば、どうすればいいかわかったのだろうけど、この時のわたしには、咄嗟のことで余裕がまったくなかったのだった。 「まだですか?」 気づいたら、後ろにも何人も並ばれてしまっている。お客さんが、ハッキリとイライラしはじめたのがわかって、ますます焦った。 「えーっ、と…」 その時だった。 「アイスのアタリ交換ですね」 ピピピピ、っと。 隣のレジからいつの間に現れた松田くんが、流れるような動きで何やらボタンを操作し、あっという間に、対処してしまった。 「お待たせいたしました。ありがとうございました」 わたしの代わりに優雅に頭を下げる松田くんの横で、わたしも慌ててお辞儀する。 「あ、ありがと…」 すぐ次のお客さんが来たので、ちゃんとお礼を言う暇もなかった。松田くんは、わたしにしかわからないような角度で、ひらひらと手を振りながら自分のレジに戻っていく。松田くんの方にもお客さんは並んでいるのに、どうして来ることができたのだろうと思ったところで、チン、という音が2回鳴った。どうやら、2人のお客さんの電子レンジ待ちのあいだに、ヘルプに来てくれていたみたいだった。
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