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泡がはじける
「あー…だるいよね」
ガコガコン。すべらせたペットボトルがたてる音までも、どこかだるそうに聞こえる午後6時。
松田くんは、いかにも疲れたという様子で、ジュースを補充していく。
「だいたいさ、さすがに寒いよ。半袖じゃ」
「それは確かに」
お客さんのためにキンキンに冷やされた飲み物、を用意するための冷蔵庫、に商品を補充するためのバックヤードのこの部屋は、当たり前だけどひんやりとしていて、半袖だと寒いくらい。暑がりの松田くんは、長く続く梅雨の肌寒さにも負けず半袖の制服を着ているので、それが仇になったようだ。
「ていうかさ、僕たち2人ともバックヤードにいるのに、全然呼ばれないってやばくない」
このコンビニそろそろつぶれるんじゃないかなー、と、怖いことをぶちぶち言う。まあ確かに、ガラスケースの隙間から覗いた店内では、松田くんに負けず劣らずだるそうな店長が商品の発注をしているきりで、お客さんは1人もいない。
「なんのためにこんな寒いとこにいんのかね、僕ら」
はーっと、手を温める吐いた息が、少し白くなりそうな、そんな気温だ。松田くんは、いかにも早く終わらせて店内に戻りたそうである。
…そんなに、嫌そうにしなくてもいいのになあ。
ほんのちょっとも、「早く終わらせたい」以外のことを思ってくれない松田くんに、わたしは別の意味で息を吐いた。
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