準探偵ごっこ

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 最初の目についたのは、左側の押し入れだった。桜の花びらが散りばめられている。上下に二つの引き戸がついている。下だったら人も入れそうなくらいだった。上だと重量オーバーで底が抜けそうで怖い。まさかあり得ないとは思うけれど。その左には青い花瓶に刺さっている一輪の白くて小さい花。その背後には掛け軸。有名な人が書いた文字なのだろうけれど、素人の目からしたらミミズがのたくっているような文字にしか見えない。  レイルがまた動いた。押し入れを前に立ち止まる。うつむいたまま数秒間立ち止まっていたが、その場で片膝をついた。下の押し入れの左側を開く。かくだん押し入れの中身に興味があったわけではなかったが、何となく彼女の隣に行って同じように中をのぞき込んだ。  いろいろな茶道道具が収められている。初めて見るものばかりだったが、唯一、正式名称が合っているかはわからないけれど、湯飲みだけはよく知っていた。おじいちゃんとおばあちゃんの家に遊びに行くと、二人が今でよく湯飲みを使ってお茶を飲んでいたからだ。 「小林、手袋」 「えっ? 手袋?」  レイルは左の空きスペースを注視していた。 「ごめん、持ってない。けど、どうかしたの……?」  茶色の目が糸のように細められてこちらを見返す。少し眉間にしわができていた。身体をわずかに左へしりぞける。非難するような目で見られても、季節が季節だ。春の暖かな陽気に手を守らなくても冷えることはない。  レイルはまたじっと同じところを見る。 「ねえ、何かあるの?」 「紙」 「紙? えっ?」 「けど、いい」  レイルがよくても俺がよくない。だって紙なんてこの押し入れの中には見あたらない。奥にあるのか。髪だったら一本だけ落ちていたけれど。  隣が立ち上がって今度は上の押し入れを開けた。見上げる。途端、座布団が飛び出してきた。落ちてくるかと思ったが、レイルが両手でどうにか押し返している。しかし中に押し込むまでの力はないようで、二、三枚は完全に押し入れから出ていた。 「うわっ 大丈夫っ?」  立ち上がって左から加勢する。だが押し込めないのは力の問題ではないのだと気がつく。身長だ。もう少し高ければうまく座布団を積み直せたのに。結局、俺が抑え込んでいる間にレイルが崩れてきた座布団を抜き取って、下の押し入れに滑り込ませることになった。 「びっくりしたね……」  全部を下に移し終えて苦笑いを漏らす。軽くうなずかれる。押し入れの扉を閉めた。また押し入れを前に少し立ち尽くしてから、身体を回転する。開かないドアの前にレイルが戻った。同時に顔をこちらに向けた。 「村上、開けて」 「えっ、村上?」 「あ、小林」  瞬きをした。一年は友人をやっているつもりなのだが、まだ覚えられていなかったか。しかも村上と間違えるなんて。ちょっと勘弁してほしいな。  咳払い。レイルがドアを指している。扉を前にして、取っ手に手をかけて横に流そうとする。しかし動く気配は全くなかった。何かにせき止められているようで、低い衝突音がする。手を止めて、目を動かす。左に流れた視線は、ドアを内側からロックする上下式のボタンに向いて止まった。  それは、二枚のドアがちょうど重なっている部分で、真ん中にあたるところにあった。小学生の頃、掃除の時間に廊下へ一人だけを残して教室の鍵を内側からかける、なんてことをやるのがはやっていた。子どもってときどきものすごく残酷だ。鍵を下げる。がちゃっと音が鳴った。扉を横に流す。今度はすんなりと従ってくれた。右後ろにいる友人を顧みる。
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