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【番外編】修学旅行
二日目までは良かったのだ。
初日は他学科とは別行動で異人館の見学。西洋文化を掠めただけで音楽にどう影響を及ぼすことができるのかは甚だ疑問だが、普通科と別行動という点に於いては万々歳だった。二日目の有名テーマパークの見学だって、まあ悪くはなかった。学校行事特有の制約をかいくぐり、生徒たちは思い思いに(班行動など無視して)楽しんでいるように見えた。
そして迎えた三日目は、古の都を班別に見学。涼は緊急要員として宿泊先のホテルに待機していた。はぐれたとしても日本語圏内、高校生ならばケータイで連絡を取り合うなり、道行く人に訊ねるなり対処の仕様はいくらでもあった。普通科の女子生徒が一人、気分が悪くなったとかでホテルで休んだ件以外特にトラブルもなく、つつがなく終了。ホテルで食事を取り、班ごとに割り振った部屋の鍵を渡せば、あとは十時に点呼を取るだけだった。そう、ここまでは良かったのだ。
不穏な空気を感じ取ったのは食事中だった。普通科の教師陣がどうもよそよそしい、というより怪しかった。始終こちらを伺っては忍び笑いを漏らす。
涼は箸を揃えて戻した。隣で茶をすすっていた百瀬恵理に何の気なしに訊ねる。
「百瀬先生、何かあったんですかね?」
「え!?」
大仰なリアクション。恵理は激しく首を横に振った。
「いえ何でもありません何にもありません! ええ本当にっ!」
涼は目を眇めた。絶対何かある。が、生徒たちもいる手前、事を荒立てるのは好ましくない。
「先に部屋行きます。二〇九号室ですよね?」
「え、あ……はい」
追及は後にしよう。涼は席を立って部屋に向かった。
しかし、この時既に手遅れだったのだ。
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