一限目

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 久しぶりに教師らしく生徒の話を聞き、教師風アドバイスを伝授し、最後は教師っぽく鬼島統を見送った翌日。  出勤早々、涼は卒倒しそうになった。  音楽科準備室の一角にある渡辺涼専用机。洗った後、伏せておいた涼専用カップ──その隣にあるマグカップを穴が開くほど凝視する。黒一色の飾り気皆無なマグカップは、涼のものではなかった。来客用の予備カップとも違う。見覚えすらない。  しかし、こんな馬鹿げた真似をする人物に心当たりはあった。ついでに、その意図も。 (最近は大人しくしてると思ってたら……っ!)  マグカップを掴む手が小刻みに震える。油断大敵とはこのことだ。  奴は、鬼島統の兄だ。よもや誕生日の件は口には出すまいが、統なら昨日紅茶をご馳走になったことぐらいなら言うだろう。もしくは遙香から聞いたのかもしれない。  いずれにせよ、鬼島天下は自分が一度も出されたことのない紅茶を、他の生徒が飲んだことを知って、黙っているような奴ではなかった。それはこの半年で身に染みてわかっている。  だからといってここまでやるか、普通。  涼は黒のマグカップを前に頭を抱え込んだ。
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