一限目

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「生徒に向かって『馬鹿』はないと思います」  と書かれたノートの切れ端を、涼は手の中で握り潰した。  今朝返却したはずのマグカップは涼の机に舞い戻っていた。無論、この状況を予測できなかったわけではない。そもそも天下が一、二度冷たくあしらう程度で追い払えるような奴なら話は早いのだ。  しかし実際は、マグカップを突っ返されてもめげないどころか、嬉々として返信してくる始末。こうなってしまうと涼も退けなくなる。何が何でもマグカップを返却し、天下の淡い期待を打ち砕かなくては。  涼は机に置いたメモの束から一枚引き抜き、ボールペンを手に取った。イタリア語では甘かったか。 「新しいコップですね。買ったんですか?」 「いいえ」  手元を覗き込んできた同僚に即答。 「忘れ物です」
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