25人が本棚に入れています
本棚に追加
「生徒に向かって『馬鹿』はないと思います」
と書かれたノートの切れ端を、涼は手の中で握り潰した。
今朝返却したはずのマグカップは涼の机に舞い戻っていた。無論、この状況を予測できなかったわけではない。そもそも天下が一、二度冷たくあしらう程度で追い払えるような奴なら話は早いのだ。
しかし実際は、マグカップを突っ返されてもめげないどころか、嬉々として返信してくる始末。こうなってしまうと涼も退けなくなる。何が何でもマグカップを返却し、天下の淡い期待を打ち砕かなくては。
涼は机に置いたメモの束から一枚引き抜き、ボールペンを手に取った。イタリア語では甘かったか。
「新しいコップですね。買ったんですか?」
「いいえ」
手元を覗き込んできた同僚に即答。
「忘れ物です」
最初のコメントを投稿しよう!