一限目

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「Narr」  と書かれたメモを天下は摘んだ。あまりにも予想通りで頬が緩む。  嫌なら無視すればいいのに。律儀に返信してくるのはもはや性根と言っていい。天下は涼の性格を理解していた。  押せば押し返す。引けば引き返す。無かったことにして流すことができないのだ。そのくせ、酷く臆病で自分から動くこともできない。  残念ながら生徒と恋愛する程後先考えない人ではないが、こちらがアプローチする度に毎回突っぱねてくる。毅然と拒むのだから意思は強い方と言っていい。しかし恋愛の場合は、無関心であることが一番効果的に拒む手段なのだ。こうしてマグカップを返したりせずに捨ててしまえばいい。涼にはそれができなかった。  拒絶であれ一々反応を示すからかえって天下は煽られるのだ。少しでも関心を引きたくて、こっちを見てほしくて、んでもって思惑通り向いてくれたら嬉しくて。  馬鹿だなあ。まさに涼の言う通りだ。子供染みて、馬鹿みたいだ。涼も、自分も。  でも、悪くはなかった。 「何それ。課題?」 「いや」  手元を覗き込む香織。咄嗟に天下は青いメモを裏返した。 「手紙、みたいなもん」
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