夏の夜。

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 無理のある言い訳だ。しかし、悲しいかな、錦もやはり男子。女性の前でつい見栄を張るのは、最早条件反射だろう。勿論、此の女官は色々と察してしまった。口元を衣の袖で覆い、気を使いながら笑みを堪えているのが分かる。錦は顔を赤らめながらも。 「あ、あのっ……そう言えば、貴女をお見掛けするのは初めてで……私は、錦と父より賜りました者に御座います。貴女の御名前を、伺って宜しいですか?」  改めて名乗り、一女官へ丁寧に頭を下げる『后妃』の姿に、其の女官は素直に驚いていた。声を躊躇い間が出来たのだが、頭に何かが思い浮かんだ様な表情の後で、錦以上に頭を下げた。 「私、祭(マツリ)と父より賜りました者に御座います。こう見えて、御所の事等も少しは詳しい方なのでお役に立てればと」  錦は、下げた頭を上げて目を見開き祭を見る。 「お若そうに見えますが、凄いなぁ」  感慨深くそう言う錦へ、女官は微笑む。 「まぁ、嬉しい。結構いっているのですよ?得意分野は、帝の御幼少の頃等でしょうか」  此処に、錦は僅かに祭の方へ身を乗り出した。 「えっ、一刀の小さい頃?」  祭は、錦の此の素直な反応が可愛いらしくて、小さく吹き出してしまった。 「失礼致しました。后妃様は、御興味が……?」  微笑む祭へ、錦は恥ずかしそうに髪を掻く仕草で誤魔化そうとする。 「は、はい……聞いて宜しいかな?」 「では、取り敢えず火の具合を見ながら、厠の方へ参りましょう」  祭は、錦の当初の目的をと促した。更に顔が熱くなってしまう錦。 「か、忝ない……」
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