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「御免なさい、一刀」
「間に合ったろ、構わぬ。転ばなかったか」
笑い、からかう一刀の声に、給仕達も表情を緩ませた。錦は顔を赤らめる。
「お、幼子では無いぞっ」
そう抗議する錦へ声を堪えて笑う一刀。微笑ましいやり取りに給仕も笑みを溢している。此の子供扱いに、今夜は祭より色々聞かねばと強く思う錦であった。
其の日は、一刀とゆっくり時を過ごす事が出来た。一刀が何処にも行かない、錦には何より嬉しく、特別な日だ。祭のお陰で、庭が怖くなくなった錦は、一刀へ夜の散歩をねだった。美しい夏の夜空に、時雨が足元を照らしてくれる為に持つ提灯の灯りだけ。暗い事には変わり無いが、恐怖は無い。
「一体どうした?昨日はあんなに怖がっていたと言うのに」
「何でも無いよ。お庭には、怖い幽鬼なんていないって思ったからさ」
昨夜の事に、怪訝な表情を浮かべる一刀へ、錦が笑う。昨日の今日で、何故其処に至ったのだと、一刀は少々残念にも思えた。只一人、時雨だけは何の話やら、さっぱりであったが。
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