夏の夜。

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 其の宵、更に錦は何時もよりかなり早くに湯浴みを済ませ、床へとついた。祭の夜勤へ合わす為の仮眠である。今宵は大人しく共に寝て欲しいとせがむ錦だが、床へと入ると無意識なのか、一刀へ身を寄せてくるわけで。理由が分からぬ一刀にとっては、酷いお預けであった。何故、と。しかしながら、昨夜は怖がる錦へ迫った己。若干の反省もあるのか、渋々ながら譲歩した一刀。直ぐに眠くはならない上に、お預けに耐えねばならない。かなり難解な書を広げていると、眠気が其れなりに出てきた。日々の疲れも常に溜まっているわけだ、こんな日も悪くは無い、そう己を納得させ漸く寝入った一刀であった。  再び訪れた深い夜。一刀の腕の中にて、目を覚ました錦。何れ位の時であろうか、御帳の中は勿論、部屋中が暗い。昨日と同じ様に、静かに、ゆっくりと一刀の腕からすり抜けた錦。襖を少しずつ開くと、昨夜と同じく誰もいない薄暗く、長い廊下。だが、錦は笑顔で部屋を出た。厠の方向へと足を進める。逸る気持ちを抑え、ゆっくり、静かに。祭は何処だろうか、そう思いながら辺りを見渡していると背後より。 「后妃様」  祭の声だ。笑顔で振り返った錦へ、祭も笑っている。 「まぁ、随分御機嫌ですこと」  勿論だと頷く錦。 「うん。今宵は、一刀のお話を聞かせて貰えるんだもの。楽しみだったんだ」  素直で純真で、そんな錦へ思わず祭は目を細めた。其の優しい瞳に、錦はやはり不思議な思いが湧く。どうして、こんなに安心感があるのだろうか。
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