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二人は揃い、先ずは火の確認を。全てを一度確認出来た頃合いに、昨夜と同じ景色が見える場所へと落ち着いた。では、早速と軽い咳払いをひとつした祭。
「お小さい頃の帝は、其れは其れは」
微笑みつつ、口を開き語り出した祭の声に錦も微笑む。きっと、愛らしかった事と続くと確信していた錦。だが。
「ひねくれておいででした」
等ときた。ひきつる錦の表情。
「え、ひ、ひねくれてたの?」
幼子の頃からか、といった驚きだ。最早、あれは気性かとも。祭は錦へ、強く頷いた。
「其れはもう。六つ程の時には、上の従兄弟の蒼玄様や樹様とつるんで、賭け事紛いの遊びをなさったり……絵巻物等を見て笑顔でいらしたのは……三つ程迄かしら」
眉間へと皺を寄せ、呆れた様な溜め息も聞こえてきた。そう言えば、薊より以前聞かされた一刀に関する思い出話にも、己との気性の違いに驚いた事があった。
「な、何か、一刀って凄いなぁ……」
そんな錦の感想に、困った様な表情で祭が息を吐く。
「ええ。確かに凄い御方ですわ、薊殿の御苦労が偲ばれます」
「薊殿……」
錦も薊へ思いを馳せた。其の他、色んな話を聞かせてくれた祭。結構なやんちゃで、御所を勝手に抜け出した事もあったとか。幼いながら、裏表の使い分けが得意で、時に嘘泣き、時に愛らしい笑顔で、父である前帝や家臣を振り回していたこと等々。錦はそんな一刀と、前帝の微笑ましい父子のやり取りを想像し、声を潜めつつも楽しげに笑う。
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