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日の光が最も強く輝く季節。此処、東の国にも、夏の季節が訪れていた。盆を迎えたものの、彼方此方で響くのは、まだまだ元気な蝉の鳴き声。時折騒がしい程ではあるが、此れも訪れた季節を彩る音だ。
そんな東の御所、其の奥の奥。後宮にて、大切に囲われる帝の宝物。美しき男子(おのこ)の后妃、錦は其の内より日差しの強い庭を只眺めていた。
「――お散歩行きたいんだけどなぁ」
強い日差しを眺めながら、詰まらなそうに呟いた錦へ、后妃付きの女官、薊と小夜が苦笑いを見せた。
「本日は、雲も無く少々日差しが強う御座いまする。御体にも負担がありましょう」
小夜が、先ず錦へ。そして。
「申し訳御座いませぬが、日が落ちる迄御辛抱を……時雨殿よりも、お止めする様にお願いされておりますので」
続いた薊の言葉に、頷きつつも溜め息が出てしまう錦。
「日が落ちる迄……時雨も言ってるんじゃ、三対一か。分かりました」
素直に大人しくしているかと、蝉が懸命に鳴き声を響かせる庭を眺める錦。
「其れにしても暑いねぇ……」
ぽつりとぼやく声が。扇を手に、そんな錦へ風を送りながら小夜も続き口を開いた。
「こんな日は、怪談等耳にすると涼しくなるとか申しますが……私は少々苦手ですわ」
等と。薊は苦笑いを浮かべている。錦はと言うと、興味を持ったのだろうか、小夜の方へ僅かに身を乗り出すと。
「怪談?って、あやかしやらの類いのお話だよね。小夜殿は、何か知っておられるのか?」
好奇心旺盛な錦の反応に、小夜は少し戸惑い、瞳を反らした。
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