夏の夜。

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 そう言った一刀の優しい掌が、錦の頬へ触れる。擽ったくも幸せな心地好さに、更に笑顔を見せる錦。ふと、視界へ入った箪笥の上の黒い箱。あれは、と。 「一刀、あれは……?」  錦が箱を瞳で指しつつ、一刀へ訊ねた。一刀は少し腰を上げ、其の箱を手にする。 「此れは、父上が画師へ描かせた母上の肖像画だ」  瞳を輝かせる錦。 「え、御母上の?是非見せて欲しいな……お願いだよ!」  あまりにも期待を込めた錦の瞳に一刀は苦笑いを浮かべ、其の箱を錦へと手渡した。 「あぁ、構わぬぞ。ほら」  其の少し大きな、平たい箱を手に笑顔の錦。丁寧に下へと下ろし、蓋を開けると出てきた其の絵に、錦は目を見張った。無邪気な可愛いらしい大きな瞳、其の笑顔は日の光の如く眩しい程。前帝が全てを掛け愛した、只一人のひと。 「え……」  動揺の中、出た錦の声。蓋を手に持ったまま、雛芥子の肖像画を見詰め固まっている。何故ならば、其処に微笑む女性は祭と瓜二つであったのだから。其の錦の様子に、一刀も、薊と小夜も怪訝な表情。 「どうかしたか」  一刀が訊ねると、錦は肖像画より顔を上げた。箱の蓋を持つ手が、少し震えている。 「あの、こ、此方の方が、御母上なの、かな……?」  一刀は、錦の妙な様子に小首を傾げる。 「あぁ、そうだが……」 「あの!一刀は、ま、祭殿と申される女官の御方を知ってるよねっ?」
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