夏の夜。

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 突っ込んだ一刀へ、錦の視線が泳ぐ。錦は、昼間小夜より語られた話を一刀へ聞かせた。其の時の心境を思い出したのか、己の衣の袖を握り締めながらほんのり涙を浮かべる錦が、一刀には堪らなく可愛らしく見えて仕方が無い。話を聞き終え、悪戯心の湧いた一刀は、必要以上に神妙な表情を浮かべて見せる。 「――成る程……小夜がそんな事をな」  味な事をしてくれる。天晴れであると、一刀は心の中で小夜を讃えた。 「一刀は、其れ知ってる……?」  勿論、御所で起こった此の事件は一刀の記憶にも在るものであった。 「後宮の庭で事件があったのは真だ。俺も知る」 「え……じゃあ、本当に……?」  一刀の神妙な表情は変わらない。 「ああ。痴情のもつれで一人が命を落としているというのも、真」 「うっ……あ、あの、よく側を歩く池だよね……?」  青褪め確認する錦へ、一刀も神妙に静かに頷く。 「……何とも、痛ましい事件だ」  低く静かな声で答えた一刀へ、錦には背筋が凍りつく様な感覚があった。小夜も、薊も此の事を知っていて、一刀迄も其の事件の真相を知る。実話の怪談等、錦にはかなり刺激が強すぎた様だ。思わず、涙目で一刀の衣を掴み握り締めてしまう。 「一刀……今宵は、私が寝る迄寝ないで欲しいんだ……灯りも、付けてて良いかな……?」  等と上目遣いにそんな事をねだられた。震える肩、潤んだ瞳。一刀はこんな錦の姿に、手にあった煙管を手から滑り落としてしまった。 「い、いっとぉ……?」 「そうか……では、早めに眠ってしまうと良い。灯りも消さぬ」
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