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ゴトゴトゴトゴト……。
『早く歩け! もたもたするな!』
野蛮な声が聞こえる。
すすり泣く声の数からして数人。今日は少ないようだ。
「新しい子たちかな」
「そうだろうな。この間、随分と減ったからね」
小枝のような足首を何度も伸ばし、少年は小窓から廊下を覗こうとしている。真昼のように輝く髪と橙色の尻尾がときどき揺れる。鉄格子の填められた小窓は少年の背よりも更に高く、彼が背伸びをしてやっと外が少し見えるくらいだ。
「みんな元気かな」
「みんな?」
「友達だよ! 貰われていった先で元気にしているかな」
「さぁ、どうだろう。もう死んでいるかもしれない」
「死んでいるだって? どうしてそんな夢のないことを言うんだよ」
「夢? ここで夢を持てとキミは言うのか」
部屋の奥に置かれたベッドから少年は勢いよく起き上がった。彼は夜空色の髪を逆立て、星空のように所々に黄色い毛が混ざる黒い尻尾を大きく膨らませた。
「夢があればボクたちは生きることができる。そう、いつもウサギのお兄さんが言っているじゃないか」
「それはどうかな。あの人のこと、僕は信じていないよ」
静かな石の廊下を、ぺちぺちと足音が横切る。
それを、彼はまた背伸びをして、鉄格子の隙間から見ようとしていた。
「ねぇ、キミは神様も信じていないの?」
「そうだねぇ、神様がいれば、僕らの願いは叶っただろうし、今もこんな鉄格子の中にいないよね」
夜空の少年の言葉に、真昼の少年は引き攣る程に伸ばしていた土踏まずの力を抜き、小さく「うん」と頷いたのだった。
「そういえば、シェーブルくんとミセラくんは?」
「彼らは別室だから、僕らとは扱いが違うよ」
「選ばれたんだね」
「フルコースのメイン料理さ」
「彼らはナニになるのかな」
「もう旅に出ているかもしれない」
そっか、と真昼の子は格子戸から手を離し、夜空の子の隣に立った。
「次は僕らの番かな」
「次こそは、僕らの番だよ」
――ガチャリッ
『皇帝自らが、今夜の食材は御選びになられました!』
ワーッという歓声が部屋の外から聞こえる。
「蠅の羽音が耳障りだ」
「どうなるんだろう、ボクら」
他の子供らからも怯える声が聞こえてきたが、そのうち讃美歌が流れると皆、声を盗られたかのように静かになった。
燕尾服に身を包んだ者は燭台に火を灯し終えると、奥の扉を開いた。
『さぁ、晩餐会の時間です』
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