幸せを招く服

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 五日後の木曜日。  仕事帰りに彼と食事に行った。彼は目を何度もこすった。この前のような積極的な親しさが感じられなかった。  土曜日に二股の相手と遊園地デートに行くらしい。金曜日に同僚女性から情報をつかんだ。  あの子もお試しされる?  楽しかったら固定彼女となるのか。  わたしとは終了して二股ではなくなる。  そんなの、イヤだ。  阻止できるものならする。  現状はどちらとも正式なお付き合いではない。わたしはここで踏ん張ってみせる。  わたしは慌てて日曜日の彼を確保すべく、食いつきそうなエサを垂らした。以前行きたいと言っていた映画の券を知人からもらったと、古典的な誘いをした。  彼はすごく喜んだ。  わたしは日曜日の彼を捕まえた。  そこで、わたしは悩んだ。  服装だ。  姉の服を借りたときの高揚感。  わたしの雰囲気が彼に伝わった。  だから好印象を彼に与えた。  そのように考えてみると、木曜日は仕事帰りで、気合入りの服ではなかった。  よし。  精一杯のおしゃれをして行こう。  あの子と彼は遊園地に行く。  ジェットコースターにフライングカーペット。軽装で遊ぶだろう。彼の気を惹くステキなワンピースなど、着られない。  わたしは差別化を目論んだ。  とっておきの服を着て行こう。  彼とあの子がデートしている間、わたしは翌日の映画の券を買って、素晴らしい服を探す。  頑張ったんだ、わたし。  明日に響かない程度に足が棒のようになるまで、服を見て回った。試着した。  どれもこれも。イマイチわたしの琴線に触れない。わたしの気分がのっていない服など、着ても彼の目を惹かない。  どうしよう。  なんて思いながら、姉の部屋にそっと入る。だってこの前、彼の気が惹けたのは「お姉ちゃんの服」だったからだ。  困ったときの姉頼み。  黙ってまた貸してください。  そろっとドアを開けた。  姉はまだ居なかった。  遠慮なく洋服をあさらせてもらった。  あった!  これだよ、これ。  お借りします。  お姉ちゃんではなく、服に願った。
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