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いとこがわたしを店で迎えてくれるはずだったが、今朝、病院に緊急入院した。
さっそくのアクシデント勃発。
大事を取っての入院らしい。
ダンナが大騒ぎするからしばらくおとなしく入っているわ。
バイトの人は三十歳のしっかり者。安心して店長代理をして欲しいと電話があった。
そして、こう言った。
「この店を始めた途端、長年の願いが叶ったの。シュナちゃんもきっといいことか起きるよ」
明るい声で未来を夢見た。
ああ、そうだね。
店、頑張ってやってみるよ。
なけなしの明るい声で返事した。
つわりがほとんどないの。
しばらくはバイトさんとシロウト三人でレンタルサービスしましょう。
わたしが赤ちゃんを産む頃にはシュナちゃんが中心となり、バイトさんと店の経営ができるようになっているわ。
……という智晶ちゃんの目論見は、水分も取れない盛大なつわりが始まったことで、初っ端から大幅な予定変更となった。
まるで、わたしの到着を待っていたかのように、いとこは戦線離脱した。
でもまあ。近所に住むバイトさんが居てくれる。二人三脚で頑張ってみよう。
レンタル業が上手くいかなかった場合、店の名義はいとこ。わたしは雇われ店長に過ぎない。
頑張ろうと決意しているが、最悪、逃げ道は確保しておきたい。
バイト経験はあるが、店経営なんてやったことがない。
三ヶ月くらい頑張ってみるが。
食べていけないようなら早期撤退、廃業をいとこに提案するつもりでいる。
自営業なんて、考えてもみなかった。続ける自信なんてどこにもない。
だから心の傷が癒えるまで。
元気が出てきたら。
また都会に戻る。
だからそれまでの期間。
バイトさんがいい人でありますように。バイトさんが跡を継いでやってくれますように。
それだけを祈る。
あの角を曲がれば祖母宅。
これからのわたしの居場所。
キャリーバッグを引っ張って。
胸を張って角を曲がった。
……店が開いている?
誰かが店先を掃除していた。
背の高いあの人が、バイト?
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