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スレンダーな女性と思いたかった。
どう見ても年上の男性だった。
いやいやいや。
思い込みは何ごとに対してもいけない。
バイトさんは女性で、あの人はバイトさんの彼もしくは夫。
店長の緊急入院を聞き、彼女は応援要請をした。彼は快く手伝ってくれているのだ。
……彼と彼女。
イタタタタタ。
この単語を思うだけで胸が痛い。
わたしには馴染み薄い土地。
バイトさんの知り合いに今後も世話になることも出てくる。
第一印象は大切だ。
にこやかに挨拶しよう。
「こんにちは、あの……」
「リアル店舗の営業時間は午後一時から七時なので、昼から来てもらえますか。ちなみに本日は店長の都合で営業はサイトのみとなってます」
シャープな頬の。鼻梁がスッと通っていて、だが嫌味のないほどよい高さの鼻で。切れ長の麗しい茶色がかった瞳の。
これで黒髪でオールバックに撫でつけていて白シャツに黒の蝶ネクタイでもしていたら。
その口ぶりは許せる。
全面的にオッケーだ。
だが黒髪ではない。撫でつけてもいない。
茶色の中に黒髪が混ざり、ふわりとさせている彼は一見、遊び人風だ。
服装もダメだ。
ピンクとオレンジの細い縦縞模様のシャツの裾を、だらしなくズボンから片方だけ出している。
ズボンはチノパンでもスラックスでもパンツでもない。思いっきりズボンという名称が似合っている。
なぜなら。
だぶだぶのサイズがあっていない大きなズボンをサスペンダーで吊っている。
わたしはこのようなズボンを穿いている人の映画を紹介しているテレビを小さな頃に見た。世界的に有名なコメディアンで、軽快な音楽に合わせて踊っていた。
コメディアンの人は白黒映画でそれなりにカッコいいと思えたが。
あれはずいぶん昔だったからこそカッコよかったのであって、二十一世紀に同じようなズボンを身につけるのはいかがなものか。
なんてこと。
思っていても言いません。
だってわたしの彼じゃないし。
バイトさんの心象をいきなり悪くしたいとは思わない。
バイトのお手伝い。
いっときの出会い。
一期一会は気持ち良く。
「その荷物。遠くから来たとか? ムリ聞いてもらえたとか、ネットに書き込まないならレンタルしますよ。でもリアル店舗では一回に付き一着が規定です。それを納得していただけるのなら。……でもマジ、サイト利用したほうが簡単ですよ。リアル店舗だから安く借りられるってことはないんで」
うん。顔も眉目秀麗で精悍だが。
声も心地良い音質で滑舌もいい。
これでにこやかだったら最高だ。
その、あからさまに面倒くさそうな表情。君、バイトだったら落第だよ。
だから彼女が臨時要員してきたのだとも推測できる。たぶん、彼女依存の彼。
そんな彼は要らない。
自分を慰めて、さてと。
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