ブラウニーと朱南

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「こんにちは。戸田オーナーの代理を務めることになった者です。バイトさんにお話ししてあると聞いていますが」  ほらさっさと彼女を呼んでこい。  微笑みを見せつけて、催促する。 「あんたが智晶ちゃんの代わりだったのか。あんまり頼んなさそうで、幸せ求めてやって来た、幸薄そうな客だと思った」  そんな良い声で、遠慮も容赦もないなバイト彼。  ああそうだよ。  わたしは幸薄そうな女だよ。  悪かったね。振られたばかりで。  根性出せずに尻尾巻いて逃げてきて。 「だけど、智晶ちゃんが選んだんなら。俺に異存はない。これからよろしくな」  店の引き戸。アルミ部分を拭いていた雑巾を絞った濡れた手で握手を求めてきた。  雑巾をすすいだバケツ。  水が真っ黒なんですけど。  その手で握手を求めてられてもイヤなんですが。ってか。話が引っかかるのは 「バイトさんは」  どこに? 早く会わせてくれないかな。 「名前、名乗ってなかったな。ブラウニーと呼んでくれ。俺の本名だけど、誰も呼んでくれなくてさ」  わたしは目の前の、あきらかに日本人の男性から顔を背ける。  こいつ、もしかしてヤバい奴?  店長が居ないうちに彼女とこの店を乗っ取ろうと謀っているのか。  だけどまずは 「バイトさんに会わせて欲しいのだけど」  再度請求する。 「俺がこの店のバイトだ」  ほ~う。  ブラウニーと名乗る彼。  君がこの店のバイトだと?  乗っ取ろうという気、満々ではないか。  智晶ちゃんができなくなった場合、バイト女性にゆくゆくは店を引き継いでもらえれば。わたしはそう思った。  だが、乗っ取られるのと、円満引き継ぎはまったく違う話だ。  受けて立とうではないか。  この『レンタルショップ キャットブラウニー』の店長代理として。
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