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充はウィンドーショッピングを独りで楽しんだ後、最近よく行く喫茶店に入った。
「いらっしゃいませ」
若い店長の三木力太郎(みき りきたろう)が優しい笑顔で言った。名前とは正反対に細みで背が高くスレンダーな三木は長髪を後ろで一つの団子にしていて、眼鏡をかけベストを着た姿が知的な美しさを醸し出していた。
その店長が作り出す暖かい店の雰囲気に惹かれて充は通っていた。それと、充は気にかかっていることがあった。
水を持ってきて注文を取りに来た店長の爪をよく見ると紫色に塗られていた。充はやはりと思いながらケーキセットを注文した。
店長がケーキセットを持ってくると、充は思いきって聞いてみた。
「あの、失礼ですが、トランスジェンダーですか。あの、私、そうなんですけど」
店長はニコッと笑った。
「あら、そうなんだ。お仲間だね。けど、僕の場合、ちょっと女よりってとこかな。着る服はメンズもレディースも着るし、好きな相手は女だから。ちょっと複雑だね」
そう言う店長は肩をすくめて笑った。
「そうだったのですか。私はレディースが好きだし、恋愛対象は男ですので、店長さんとは違いますね。教えて下さりありがとうございます」
「いいえ。僕は自分で言いふらしてるから、僕のこと知ってる人は多いよ」
「そうなんですか。私はなかなか……」
「そう……。だから君はいつも独りなのかな……。ねえ、君がよければここでバイトしない?」
突然のお誘いに充は固まった。
「ホール欲しいなって思ってたとこなんだ。できれば僕のようにLGBTの。ね、お願い」
「私、正社員してるので……」
「時間あるときでいいよ。今日みたいにふらっと来てくれればいいからさ」
「それでいいなら、やってみます。喫茶店で働くの少し憧れてたし」
店長はとても嬉しそうにガッツポーズをした。
「よっしゃぁ、ありがとう……ええっと、名前は?」
「北川です」
「北川さん、よろしくね。いやぁ、良かった。店に可愛いコ欲しかったんだよね」
店長は充とぶんぶんと力強く握手をし、充の週末バイトが決定したのだった。
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