二の段 くノ一です、にんにん

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 義苗さまは、(やみ)がうごめく屋敷の床下にほのかな光を差し入れました。すると、そこにいたのは――。 「ふ、ふえぇぇ……。お腹が減って、もう一歩も動けないですぅ……。(わたし)みたいに優秀で可愛いくノ一がこんな場所で野たれ死にするなんて、世の中はクソですぅ……」  なんと、小柄(こがら)な女の子が(たお)れていたのです。ぎゅるるる~と()っているのは、この女の子のお腹のようです。 「おい、しっかりしろ。お菓子を食わせてやるから、そこから出て来い」  なぜ床下に女の子がいるのかわかりませんが、自分の部屋の真下で野たれ死にされてもらっても(こま)ります。義苗さまがそう声をかけると、女の子はぎょっとおどろきました。 「か、完璧(かんぺき)な忍びの術で(かく)れていたのに、なんで私がここにいるとわかったですか⁉」 「なんでって、めっちゃ鳴いてたじゃん。腹の虫」 「くっ……。伊賀(いが)(さと)での(きび)しい修行で身につけた忍びの術が通用(つうよう)しないなんて、あなたなかなかやりますね!」 「おまえ、優秀な忍者がたくさんいることで有名な伊賀の国のくノ一なのか」 「うげげ⁉ ふ、普通(ふつう)町娘(まちむすめ)のかっこうをしているのに、私がくノ一だとなんでわかったですか⁉ し、しかも、私の出身地(しゅっしんち)まで見ぬくなんて、おそろしい眼力(がんりき)の持ち(ぬし)ですぅ!」 「いや、さっきから自分でペラペラしゃべっているじゃないか。そもそも、普通の町娘が大名屋敷(だいみょうやしき)に忍びこまないし。……何でもいいから、早くそこから出て来いよ。お菓子、あげないぞ?」  ()み合わない会話にだんだん(つか)れてきた義苗さまがそう言って立ち去るそぶりを見せると、くノ一は「わー! わー! 待ってぇー! お菓子ぃ~!」と(さけ)び、床下からかさかさとクモみたいな動きではい出て来ました。 「おまえ、忍者ならもっと華麗(かれい)な動きで出て来いよ……」 「お腹が死ぬほど()っていて、そんなこと気にしている余裕(よゆう)なんてないですよぉ! ほ……本当にお菓子をくれるですか?」  くノ一が泣きべそをかきながら義苗さまを見上げると、義苗さまは「あ、ああ……」と言いながら顔をプイとそらしました。  どうやら、月明かりに()らされたくノ一の顔が思いのほか可愛かったので、照れちゃっているみたいですな。
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