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義苗さまは、闇がうごめく屋敷の床下にほのかな光を差し入れました。すると、そこにいたのは――。
「ふ、ふえぇぇ……。お腹が減って、もう一歩も動けないですぅ……。私みたいに優秀で可愛いくノ一がこんな場所で野たれ死にするなんて、世の中はクソですぅ……」
なんと、小柄な女の子が倒れていたのです。ぎゅるるる~と鳴っているのは、この女の子のお腹のようです。
「おい、しっかりしろ。お菓子を食わせてやるから、そこから出て来い」
なぜ床下に女の子がいるのかわかりませんが、自分の部屋の真下で野たれ死にされてもらっても困ります。義苗さまがそう声をかけると、女の子はぎょっとおどろきました。
「か、完璧な忍びの術で隠れていたのに、なんで私がここにいるとわかったですか⁉」
「なんでって、めっちゃ鳴いてたじゃん。腹の虫」
「くっ……。伊賀の里での厳しい修行で身につけた忍びの術が通用しないなんて、あなたなかなかやりますね!」
「おまえ、優秀な忍者がたくさんいることで有名な伊賀の国のくノ一なのか」
「うげげ⁉ ふ、普通の町娘のかっこうをしているのに、私がくノ一だとなんでわかったですか⁉ し、しかも、私の出身地まで見ぬくなんて、おそろしい眼力の持ち主ですぅ!」
「いや、さっきから自分でペラペラしゃべっているじゃないか。そもそも、普通の町娘が大名屋敷に忍びこまないし。……何でもいいから、早くそこから出て来いよ。お菓子、あげないぞ?」
噛み合わない会話にだんだん疲れてきた義苗さまがそう言って立ち去るそぶりを見せると、くノ一は「わー! わー! 待ってぇー! お菓子ぃ~!」と叫び、床下からかさかさとクモみたいな動きではい出て来ました。
「おまえ、忍者ならもっと華麗な動きで出て来いよ……」
「お腹が死ぬほど減っていて、そんなこと気にしている余裕なんてないですよぉ! ほ……本当にお菓子をくれるですか?」
くノ一が泣きべそをかきながら義苗さまを見上げると、義苗さまは「あ、ああ……」と言いながら顔をプイとそらしました。
どうやら、月明かりに照らされたくノ一の顔が思いのほか可愛かったので、照れちゃっているみたいですな。
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