一の段 若殿さまは一人ぼっち

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「ふわぁ~。ヒマだなぁ。(だれ)か遊び相手はいないかなぁ……」  江戸(今の東京(とうきょう))のとある屋敷(やしき)縁側(えんがわ)で、一人の男の子がだら~んと寝転(ねころ)んでいました。  男の子はド派手で高級そうな羽織(はおり)(はかま)を身にまとい、これぞまさしく「ザ・殿さま」といったいでたちです。もちろん、頭はピストル……じゃねぇや、チョンマゲでござる。  ふぅ~む。物語の語り手である拙者がせっかくかっこよく紹介してあげようと思ったのに、のっけからやる気がなさそうですぞ、この主人公。そんなに(ひま)だったら、家来(けらい)でも呼んで遊びにつき合わせたらいいでしょうに。 「誰か遊び相手は……あっ、聡太(そうた)。オレと将棋(しょうぎ)しようよ」 「もうしわけありません、若さま。それがし、大事な用がありまして……」 「そうか、だったら仕方(しかた)ないな。……おい、(ろく)兵衛(べえ)。オレと相撲(すもう)をしよう」 「え? す、相撲でござるか? もうしわけありません。朝から右ひざが痛くて相撲はできそうにありませぬ……」 「……などと言いつつ、左ひざをおさえながら逃げていったぞ、あいつ。ちぇっ、どいつもこいつも殿さまのオレを無視(むし)するんだから嫌になっちゃうよなぁ。もぐもぐ……」  家来たちに遊びの(さそ)いを断られてしまった若殿さまは、ふてくされながら大きなまんじゅうをふたつ、みっつとやけ食いしました。  おやおや。どうやらこの若さま、家来たちにさけられているみたいですなぁ。殿さまなのにぼっち属性(ぞくせい)とは、これいかに? 「オレをさけているのは家来だけじゃない。身の回りの世話をしてくれる女中(じょちゅう)たちも、何だかオレによそよそしいんだ。殿さまになるために父上と母上がいないこの屋敷につれてこられたのが5歳の時で、8年間ずーっとこんな感じだ」  ぼっちで(さび)しいせいか(ひと)(ごと)が多いですね、この若殿さま。せっかく顔は美形(びけい)なのに、ちょっと残念(ざんねん)。そんなことじゃ、女の子にモテないぞ!  まだブツブツと独り言を言っているみたいなので、その間にこの若殿さまが何者(なにもの)なのか紹介しましょう。
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