一の段 若殿さまは一人ぼっち

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 この若殿さまは、土方(ひじかた)(よし)(たね)さま。伊勢(いせ)の国(今の三重県(みえけん))・菰野(こもの)(はん)の大名。年齢(ねんれい)は13歳でござる。本人が言っている通り、5歳でお殿さまになりました。  中学生で殿さまなんてすごい!  ……なーんて感心したそこのあなた、ちょっとちがいますぞ?  この時代の年齢は数え年といって、おぎゃあと生まれた時点で1歳とカウントするのが決まりなのです。そして、新しい年を(むか)えるごとに年齢が1歳ずつ増えていきます。0歳からカウントする今とはちがうわけですな。  だから、義苗さまは、今で言うところの11~12歳。つまり、まだ小学生なのでござる。小学生で殿さま(れき)5年とは、なかなかすごいですなぁ。 「ぜんぜんすごくないし。毎日、部屋にこもってボーっとお菓子を食べているだけだし。そもそも、領地(りょうち)の菰野にまだ行ったことすらないし」  義苗さま、物語の語り手の言うことにツッコミを入れないでくだされ……。  普通(ふつう)、殿さまは参勤(さんきん)交代(こうたい)といって、自分の領地と将軍さまのお膝元(ひざもと)である江戸を1年交代で行き来するものなのです。今年は自分の領地、来年は江戸、さらに次の年は自分の領地……といったふうに、住む場所を変えるというめんどくさーい決まりでござる。  ただ、義苗さまはまだ子供なので、免除(めんじょ)されているみたいですが……。 「あの……若さま。ご隠居(いんきょ)さまがお呼びです」  義苗さまがほっぺたについたあんこを指ですくってペロペロなめていると、女中さんがやって来てそう報告(ほうこく)しました。 「ご隠居さまが? またお菓子かオモチャをくれるのかな? もう部屋にいっぱいあるし、別にいらないんだけどなぁ~」 「いえ、伊勢ヶ(いせがはま)荻右衛門(はぎえもん)さんがあいさつに来て、若さまにお目通りを願っているそうです」 「え⁉ 萩右衛門が⁉ やったー! 会う、会う!」  義苗さまは目を(かがや)かせて、家来と会うための広間(ひろま)へと走って行きました。
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