35人が本棚に入れています
本棚に追加
「菰野藩って、そんなにもお金持ちだったんだ! 道理で、ご隠居さまやオレがぜいたくな生活をできるはずだよ。貧乏な大名家に生まれなくてよかったぁ~!」
義苗さまが目を輝かせながらそう言うと、雄年さまは、
「かーかっかっかっかっ! そうじゃろう、そうじゃろう!」
と笑いながら、黄金の扇子を広げました。その扇子には、「菰野藩百万石」と大きく書かれています。
さっきまで裸だったのに、いつのまに服を着たのでしょう。雄年さまは、ものすごく高価そうな金ピカの羽織を着て、美人の女中たちに肩や腰をもませています。昼間からキラキラと輝く金箔が入ったお酒なんか飲んじゃって、うーん、すごくリッチ!
ちなみに、雄年さまの扇子に書いてある「百万石」とは、超簡単に言うと、
「うちの領地では100万人を養えるだけのお米がとれるぜ!」
ということです。
米1石は1000合(150キログラム)にあたり、これは昔の人が1年間に食べた米の量だと言われているのでござる。つまり、100万石の米がとれるだけの領地を持っている殿さまは、100万人の人間を食わせていけるだけの経済力があるわけですな。
「ご隠居さま。その扇子の百万石ってなんですか、でござる。菰野藩はたしかいちま……」
「しーっ! しーっ! 義苗の前で余計なことを言うな!」
萩右衛門が何か言いかけたのを雄年さまは慌てて止めました。でも、義苗さまは大相撲の話題に夢中でそんなこと気にしていません。
「ご隠居さま! オレ、菰野でおこなわれる大相撲を見たいです! 菰野に行ってもいいですか?」
義苗さまがはしゃぎながらお願いすると、雄年さまはニッコリと微笑んでこう言いました。
「ダーメ♡」
「ええ~……。自分の領地で大相撲があるのに、殿さまが見に行ったらダメなんですか?」
「彦吉よ。そなたはまだ幼いという理由で参勤交代を幕府から免除されている。大人になるまでは江戸の屋敷にいなさい、というお許しをもらっているのじゃ。それなのに、勝手に自分の領地に行ったら、上様(将軍)に怒られてしまうぞい。ちなみに、隠居した元殿さまも江戸にいなきゃいけない決まりだから、ワシも菰野へは行けない」
最初のコメントを投稿しよう!