一の段 若殿さまは一人ぼっち

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「菰野藩って、そんなにもお金持ちだったんだ! 道理(どうり)で、ご隠居さまやオレがぜいたくな生活をできるはずだよ。貧乏(びんぼう)な大名家に生まれなくてよかったぁ~!」  義苗さまが目を輝かせながらそう言うと、雄年さまは、 「かーかっかっかっかっ! そうじゃろう、そうじゃろう!」  と笑いながら、黄金の扇子(せんす)を広げました。その扇子には、「菰野藩百万石(ひゃくまんごく)」と大きく書かれています。  さっきまで裸だったのに、いつのまに服を着たのでしょう。雄年さまは、ものすごく高価そうな金ピカの羽織を着て、美人の女中たちに肩や腰をもませています。昼間からキラキラと輝く金箔(きんぱく)が入ったお酒なんか飲んじゃって、うーん、すごくリッチ!  ちなみに、雄年さまの扇子に書いてある「百万石」とは、超簡単(ちょうかんたん)に言うと、 「うちの領地では100万人を(やしな)えるだけのお米がとれるぜ!」  ということです。  米1石は1000合(150キログラム)にあたり、これは昔の人が1年間に食べた米の量だと言われているのでござる。つまり、100万石の米がとれるだけの領地を持っている殿さまは、100万人の人間を食わせていけるだけの経済力(けいざいりょく)があるわけですな。 「ご隠居さま。その扇子の百万石ってなんですか、でござる。菰野藩はたしかいちま……」 「しーっ! しーっ! 義苗の前で余計(よけい)なことを言うな!」  萩右衛門が何か言いかけたのを雄年さまは(あわ)てて止めました。でも、義苗さまは大相撲の話題(わだい)に夢中でそんなこと気にしていません。 「ご隠居さま! オレ、菰野でおこなわれる大相撲を見たいです! 菰野に行ってもいいですか?」  義苗さまがはしゃぎながらお願いすると、雄年さまはニッコリと微笑(ほほえ)んでこう言いました。 「ダーメ♡」 「ええ~……。自分の領地で大相撲があるのに、殿さまが見に行ったらダメなんですか?」 「彦吉よ。そなたはまだ(おさな)いという理由で参勤交代を幕府から免除されている。大人になるまでは江戸の屋敷にいなさい、というお許しをもらっているのじゃ。それなのに、勝手に自分の領地に行ったら、上様(うえさま)(将軍)に怒られてしまうぞい。ちなみに、隠居した元殿さまも江戸にいなきゃいけない決まりだから、ワシも菰野へは行けない」
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