一の段 若殿さまは一人ぼっち

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「そんなに怒られるのですか?」 「うむ。(げき)おこぷんぷんまるじゃ」 「でも、オレももう13歳ですよ? 自分の領地がどんなところか、そろそろ知りたいし……」 「そ、そなたはまだまだ子供じゃ! わずらわしい政治なんて、大人になってからすればよい! 今は、大名としての役目はワシがかわりにやってやるから、そなたは子供らしく屋敷で遊んだり、勉強したりしていなさい!」 「ちぇ~……」  義苗さまは(くちびる)をとがらせ、残念がりました。 (家来たちは遊んでくれない。外は危険だから屋敷から外に出たらいけない。殿さまなのに自分の領地に遊びに行ったらいけない。ない、ない、ないばかりで、つまんないよ。ご隠居さまが何でも一人で決めちゃうから、殿さまらしいことをなーんにもできていないし。オレ、何のために父上や母上とさよならしてこの屋敷にやって来たんだろう?)  義苗さまは、今ごろ父上と母上はお元気だろうか、と思いました。悲しいことに、もう何年も会っていないので、二人の顔はおぼろげにしか(おぼ)えていません。  雄年さまは弟の子である義苗さまにオモチャやお菓子は買いあたえてくれるけれど、義苗さまが菰野藩について知ろうとすると、すごく(いや)がります。 「菰野藩に行ったらダメ!」と言っているのも、将軍さまに怒られるのが恐いのではなく、義苗さまが菰野の地に足を()み入れることをさけようとしているみたいです。  菰野藩は、いまだにご隠居である雄年さまのもの。 「オレなんてただのお(かざ)りなんだろうなぁ」と義苗さまは小さな声でつぶやくのでした。
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