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その三文字を口にした途端、真人の動きがピタリと止まった。この前と同じだった。だけど、今回は自信があった。真人への想いに、自分の気持ちに。
それが……いけなかった。
おそるおそる体を離すと、真人は「それで?」と言った。
「え……。だから、その、俺と……」
『付き合ってほしい』ーーーーという言葉は、なんだか違うような気がした。兄弟だった期間が長い分、言えない。
勝手だけど、ニュアンスでわかってもらうしかないのだ。本当に、勝手だけれど……。
真人は呆然としたまま、自分の靴の先を見つめていた。「真人?」と顔を覗くと、真人はハッとなって我に返った。
「……ごめん。ちょっと今、自分でも驚いてて……」
真人は手で顔を隠すように覆う。
「ほしくないと思ってたんだよ、兄さんなんて……。でもやっぱりほしくて……それなのに、どうして僕は今……」
真人は続け様に、「どうして嬉しくないんだろう」と言った。そして玄関のドアにもたれかかると、ちらりと亮治を見て、再びうなだれる。
「兄さんはさ、たぶんそろそろ我慢できなくなったんだと思うよ」
「は……?」
「僕らがセックスしなくなってから、どれぐらい経つんだっけ」
「お、おい。なに言って――」
「そうだよね。兄さんだって大人なんだから。病気とか色恋沙汰に注意できれば……いいんじゃないかな。出会い系のアプリとかで相手を探しても……」
バンッ!
気づいたら、亮治は真人がもたれかかっている玄関ドアに拳を振り下ろしていた。わなわなと震えている自分の拳が、横を向いた真人の鼻先で苛立ちを抑えようと、血管を浮き立たせている。
今、自分はどんな顔をしているのだろう。真人がこちらを見てくれないから、その瞳に映る自分の顔さえ確認できない。
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