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それがどんな意味をもつのか……亮治には正直わからなかった。まだ自分のことを好きなのか、逃げた自分に幻滅したのか。
どちらもありそうだと思うと同時に、まったくちがう理由なんじゃないかとも思えてくる。真人がわからなかった。
食事が終わり、居間で男三人、正月の特番を観ていた時のことだ。テーブルで年賀状の整理をしていた母が、「ちょっと来て」と真人だけを呼んだ。
母の傍に向かう真人を目で追いながら、会話に耳をそばだてる。
母は真人に一枚の年賀状を渡していた。聞こえてきた話によると、その年賀状を送ってきたのは母の二十年来の友人らしく、その人には真人と同い年の娘がいるとのことだった。年賀状に載せられた家族写真に写る一人の女性を差して、母は真人に言った。
「ね、一回だけでいいから会ってみない?」
ドキッとして、亮治は思わず真人を見た。真人は年賀状に視線を落として、淡々とした表情を崩さない。
考えているのだろう。「うーん」と言って、母に年賀状を返した。
断るようだ。亮治はホッとした。
え、なんで今、俺はホッとした?
そんな自分に驚いて、亮治は無意識のうちに口を手で覆う。そんな亮治に追い打ちをかけるように、真人は言った。
「うん。会ってみるよ」
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