亮治

18/73
前へ
/223ページ
次へ
***  三が日も過ぎ、真人とともに自宅へと戻ったのは、三日の夕方だった。日が暮れるのも早く、母が夕飯を用意する前に帰ってきたのだ。  おせち料理にもお雑煮にも飽きていたため、「お餅いくつにする?」と母が言った時には「もう帰るよ」と亮治は口にしていた。早く……早く、家に帰りたかった理由を、亮治は正月料理のせいにしないといけないような気がしたのだ。  本当はきっと、それだけではないというのに。  見合い話ーーほどではないが、真人に紹介したい人がいると、母は言った。真人の気持ちに気づいた亮治である。当然のように真人が断ると、勝手に思っていた。  だが。  真人は言ったのだ。会ってみるーーと。  亮治は耳を疑った。まさか真人が会ってみる気になるとは思わなかったからだ。それがいかに(おご)りたかぶった考えかを理解して、恥ずかしくなった。  どうして。  そんな疑問を抱く権利なんてないはずなのに、亮治は心の中で何度も唱えた。  自宅の玄関ドアを開けた真人は、帰ってきてからでいいやと溜めていた洗濯物を片付けに、脱衣所へと向かってしまった。亮治といえば、ソファに脱力したまま自分の胸に沸いた感情に戸惑っていた。  立ち上がり、真人のいる脱衣所へと向かう。「俺がやるよ」と衣服を洗濯機に放り込んでいる真人の背中に尋ねると、真人は「なに企んでるの」とふわりと笑った。 「べつに企んでなんか……なあ、真人」 「うん?」 「その……さ、会うのか?」 「会う? ああ、母さんの友達の? うん。僕もそろそろかなって思ったから」 「そろそろってーー」 「うん。結婚して、家庭をもつ」  キュッと胸が締めつけられ、亮治は思わず真人に手を伸ばした。だが、さりげなく避けられてしまい、触れることはかなわない。 「だっておまえ……」  突然、真人がバンッと洗濯機を叩いた。真人の急な行動に、亮治はビクッとなる。そして真人は、突き放したような声で言った。 「兄さんには関係のないことだよ」
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2274人が本棚に入れています
本棚に追加