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三が日も過ぎ、真人とともに自宅へと戻ったのは、三日の夕方だった。日が暮れるのも早く、母が夕飯を用意する前に帰ってきたのだ。
おせち料理にもお雑煮にも飽きていたため、「お餅いくつにする?」と母が言った時には「もう帰るよ」と亮治は口にしていた。早く……早く、家に帰りたかった理由を、亮治は正月料理のせいにしないといけないような気がしたのだ。
本当はきっと、それだけではないというのに。
見合い話ーーほどではないが、真人に紹介したい人がいると、母は言った。真人の気持ちに気づいた亮治である。当然のように真人が断ると、勝手に思っていた。
だが。
真人は言ったのだ。会ってみるーーと。
亮治は耳を疑った。まさか真人が会ってみる気になるとは思わなかったからだ。それがいかに傲りたかぶった考えかを理解して、恥ずかしくなった。
どうして。
そんな疑問を抱く権利なんてないはずなのに、亮治は心の中で何度も唱えた。
自宅の玄関ドアを開けた真人は、帰ってきてからでいいやと溜めていた洗濯物を片付けに、脱衣所へと向かってしまった。亮治といえば、ソファに脱力したまま自分の胸に沸いた感情に戸惑っていた。
立ち上がり、真人のいる脱衣所へと向かう。「俺がやるよ」と衣服を洗濯機に放り込んでいる真人の背中に尋ねると、真人は「なに企んでるの」とふわりと笑った。
「べつに企んでなんか……なあ、真人」
「うん?」
「その……さ、会うのか?」
「会う? ああ、母さんの友達の? うん。僕もそろそろかなって思ったから」
「そろそろってーー」
「うん。結婚して、家庭をもつ」
キュッと胸が締めつけられ、亮治は思わず真人に手を伸ばした。だが、さりげなく避けられてしまい、触れることはかなわない。
「だっておまえ……」
突然、真人がバンッと洗濯機を叩いた。真人の急な行動に、亮治はビクッとなる。そして真人は、突き放したような声で言った。
「兄さんには関係のないことだよ」
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