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【ライズ・アンド・フォール】
会場というか、ちょっとした空間の中に、同じ年頃の子達がカップルで数組。
髪の色、目の色が違う子もいれば、ちゃんとわかる日本語を話している子もいる。
「もしかして、みんな金持ち?」
「ええ、そうね。少なくとも。でも、価値観はみんな違うでしょう?」
なんていう八歳の女の子なんて、いないだろう。
前々から思っていたけど、僕とふたつしか違わないのに、舞ちゃんの発言は大人っぽい。
「仕方ないわ。同じ年頃のお友達って、健くんが始めてだもの」
――え?
「ずっと、日本と海外を行ったり来たり。学校もその度に転校。友達が出来ても、すぐにお別れになってしまうの。別れた後、連絡するのも一~二回くらいよ。だから必然と壁を作っていたみたい。だけどね、それが寂しいというものでもなかったの」
「そうかな。いいんじゃないかな、寂しいって思っても。本当は友達が欲しいって思っても。なんて、僕に言われてもしょうがないか」
この時思った。
金持ちには金持ちの悩みがあるのだと。
「そんなことないわ。お友達ができたら素敵だろうな~とは思っていたもの。そうしたら別荘で健くんと出会えたから、学校のお友達ができなくても寂しくはないわ。だって別荘に行けばまた健くんと会えるでしょう? ああ、でも健くん。私、今日で九歳になったのよ。だから、学年でいうと、ひとつ下」
「えっ? 今日、誕生日なの?」
「そうなの。だからね、どうしても健くんと、踊りたいの。ダメ?」
「ううん、ダメじゃない。僕、頑張るよ。舞ちゃんを一番上手に躍らせてあげられるように――」
僕はその言葉を実現する為に、舞ちゃんとホールドした。
音楽が流れ出す。
互いにお辞儀をして、改めてホールド。
僕らは皆と遅れること、一泊置いてから最初の一歩を踏み出した。
波のようにゆるやかに、ゆっくりと流れるように踊ることを心がけて。
右左右と前に足を出して、左足を横に右足を横後方に、左足を回すように斜め前に出して舞ちゃんを回すように動く。
右左右と足を後方に後ろ向きになってフォロー。
左足を横に右足を横後方に、左足を回すように斜め前に出して舞ちゃんを回すように動いて、ここで止める。
舞ちゃんの身体を逸らせて、ポーズ。
僕は腕一本で彼女の身体を支える。
これの繰り返しで、時間は四分くらい。
その四分が長く感じるか、短く感じるか。
僕らはその時間がとても短く感じた。
もっとこうして踊っていたい。
もっともっと、舞ちゃんを躍らせてあげたい。
その気持ちが自然と出ていた。
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