君に感謝を、そして王者の矜持に喝采を。

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 明日からここ、阪神甲子園球場では第9x回全国高等学校野球選手権大会が開催される。  初日はもちろん開会式からスタートするが、今日はそのリハーサルが行われていた。新品のユニフォームに身を包んだ代表校の球児達が、そわそわと列を作ったり解いたりしている。空気が浮き足立っていた。  眩いばかりの夏空は目に染みるほどの蒼さで、明日までとっておけばいいのに、と、サトシはまたも余計な事を考えた。甲子園の外壁は目にも鮮やかな緑のツタに覆われている。ここは文句なしに日本で一番の球場だった。サトシにとっては一年ぶり、三度目の聖地である。  しかし、今回は勝手が違う。  自分が異分子だということは、サトシ自身、最初から気付いていた。否、来る前から解っていた。この場所でたった一人、戦わずに去るからだ。旗を握る手に力を込めると、よく日に焼けた手の甲に血管が浮き出た。   前年度優勝校主将による優勝旗返還  それがサトシに課された、高校野球での最後の仕事だった。
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