君に感謝を、そして王者の矜持に喝采を。

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 こんなに遠かったっけか。  深緑のスコアボードを振り仰いで、上條悟はぼんやりとそう呟いた。  一年ぶりの聖地は、スタンドもグラウンドも高く、広く、遠く。まったく手の届かないところにあった。  それもそうだな、実際に届かなかったんだから、と。サトシは焦点の合わない目で甲子園球場のスコアボードを暫し、眺めていた。ここで後ろを振り返っても、お馴染みの顔ぶれは居ない。彼は一人だ。  たった独りだった。  手にした真紅の旗の重さは喩えようもなく、サトシは顎まで泥の沼に沈みそうになっていた。
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