一奇 二百二十七年目(上)

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 ――輝かしい太陽の出ている、午後三時のことだった。 「おじさん、暇なの?」  公園のベンチに座っていたブラック企業の社畜社員、杜若陽名世(かきつばたひなよ)は赤いランドセルを背負った少女に突然、話しかけられた。  可愛い少女に話しかけられてちょっと嬉しいと思ったが、その少女の言葉にショックを受けていた。まだ二十七歳のぴちぴちのお兄さんのはずがおじさんと呼ばれ、この明るい時間帯に公園にいるので、無職で暇そうなおじさんだと思われたことに。  陽名世は無職では無い。有給を二週間使っているだけなのだ、と言い訳をしたい。 「貴方、聞いているの?私の質問に答えなさい」  なかなか答えない陽名世に少女は痺れを切らしたようで少し声が大きい。  陽名世はとある事情が有り、暇では無いが暇だった。ちゃんと会社に行けばありえない量の仕事がある。考えたら目眩がした。  少女の質問に早く答えなければと思ったがなんと言えばいいか悩み、もうどうとでもなれと投げやり言った。 「暇です!」 「そう。では隣、失礼するわ」  少女は隣に座ると陽名世の方を向いた。  その顔は甘いチョコレートのような色をした瞳が長い睫毛(まつげ)に縁取られており、鼻筋はスッキリとしている。唇はリップでも塗っているのかピンクに色づいていた。髪は黒く艶やかで背中まで伸びていた。まだあどけないが不思議と大人っぽさを感じる少女だ。 「私は弥勒院真叶(みろくいんまかな)というわ。貴方は?」 「......杜若陽名世といいます」 「陽名世、ね。覚えたわ。......突然だけど、それは何かしら?」  にこりと笑いながら真叶は俺の隣に置いてある細長い(つつみ)を指さした。  陽名世はドキリとし、その包を強く握りしめる。 「その包が何か知ってる?その中身がただの物じゃ無いことは分かっているわ」
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