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6.博美先生
唐突に、外から、キキーッと車のタイヤが軋む音、続いてドンという衝撃音がした。
「な、なんだ」
驚いて窓に張りついたオレの目前で、博美先生が笑顔で手を振る。軽自動車が向かいの家の生垣に半分、車体を埋めて止まっていた。路上に残るタイヤ痕を見れば、軽自動車はウチの前で直角に曲がっていた。
「待たせてゴメンね、急いだんだけど」
博美先生が笑顔のまま、ウチのインターホンを鳴らす。対応に出る母。しばしの間の後、
「久しぶり」
終礼から二時間ぶりくらいで博美先生がやってきた。このひと、たしかバレー部の顧問だったはずだけど、部活はどうしたんだ? ていうか、車は大丈夫なのか? いや、そもそも、
「ええと、なんの用ですか」
朝といい、今といい、担任がこうも頻繁に生徒宅にやってくると、両親の不審感をあおる。いったい、ウチの息子はなにをやっているのだ、と。家庭内の平和に巨石を投げるような行動は本当にやめてほしい。
「んふ、大事な用があったのよ」
博美先生は勝手にオレのベッドに座る。その横にジブリールが座っており、オレは並んだ巨乳アンド爆乳の山脈にめまいを覚える。なんつーか、等身感が狂いそうなコンビだ。オレはどちらかといえば、巨乳もいいけど美乳もね、って感じなので、ここまで来るとむしろ眼福ではなく、単なる邪魔だ。圧迫されて酸素が薄くなった気がする。
「ほら、合宿があったでしょ。忘れたの? 今日からよ。これからよ」
「合宿? バレー部のですか? オレは部活はやってないので」
お引取りいただく方向へ誘導しようとしたが、博美先生がまたウィンクを飛ばした。
「バレー部じゃないわ。だって嶋本君はバレー部じゃないでしょ」
「はい、帰宅部ですが」
「そうよ、帰宅部の合宿よ」
「はあ?!」
何を言い出してんだ、このひと。帰宅部の合宿ってなに? ていうか、すでに帰宅してここはオレの部屋ですが?
「どこへ行くんですか、オレはもう帰宅してますけど」
「わたしの知り合いが温泉旅館を経営しているの。ゆっくりあったかいお湯につかって、しっとりと親睦を深めましょう。さ、行くわよ。着替えの準備をしなきゃね。下着はこのタンスの引き出し?」
「ちょ、勝手に漁らないでください! ていうか、行かないですよ、どこへも! だって明日は校内テストが」
「明日はちゃんと学校へ行くから大丈夫よ。今夜が大事なの、帰宅部にとって」
「いや、だから、今夜はここで寝る予定ですけど?!」
「キミを独りにできないの」
ひざまずいてタンスを開けていた博美先生は潤んだ目でオレを見あげた。
「本当に何年ぶりかしら、こんなに胸が騒ぐの。キミが独りだと思うと、ほら」
そのまま、オレの手を引き寄せて、強引に、
「いやいやいやいやいや! やめてください!」
自分の巨乳の谷間に入れようとする。あわてて手を取り戻すと、先生は満面の笑顔で「キミの手、気持ちいい」と笑う。ヤバイ、このひと、行動力がありすぎる! このままだと『大人の階段』がエスカレーターにってか、エレベーターであがってしまう。危険すぎる。
「と、泊まりなんて無理ですよ、オレは未成年なんですよ! 保護者の同意がなきゃ、外泊なんてできるわけが」
「さっき玄関で、成績向上のために、選ばれた生徒を合宿で鍛えるって話したら、お母様は心よく賛同してくださったわ」
「成績ってなんの?! 帰宅部の合宿ですよね?!」
「ちょうどよかった」
戸口から第三の声がしたので振り返ると、息を荒げた平岡が立っていた。
「オレも、合宿に行こうと思っていたんです。一緒に行こう、嶋本」
「おまえ、剣道部の部活はどうした?! 主将だろ」
「なんだか、胸騒ぎがして。おまえのことを考えると心配でたまらなくて」
ショルダーバッグをかついで博美先生と似たようなことを言う。ヤバイ、これはもしかしなくても、
「純愛の運命の干渉による、お約束のラブコメトラップの発動だお♥」
すべての元凶が真剣な表情で目を閉じ、深くうなずいた。
「これからキミの混浴♥ ハーレム天国が始まるお♥」
「地獄の間違いだろ……」
博美先生と一緒に風呂なんか入れるわけないし、今の平岡とは男湯でも一緒に入れない。どっちにしても危険すぎる。さらに、
「よかった、嶋本、まだいたんだ」
やっぱり。もしかして来ちゃうかなとは思っていたが、廊下から水野が現れた。こっちも泊まり用らしい大きなバッグを抱えている。例の三人、三人がそろってしまいましたよ。そして全員が、
「一緒にお風呂に入りましょう」「一緒に寝よう」「一緒に行きましょう」
とオレの手をひっぱり、三人で担ぐようにしてスウェット姿のオレを無理やり部屋から連れ出していく。
「イヤだー! オレはこれからテスト勉強するんだーっ! ドリトル先生、助けてーっ」
「テスト勉強よりも重要なことを教えてあげるわ」
「テスト勉強よりも重要なことをするから」
「テスト勉強よりも重要なことを言いたいの」
「なんかもう、嫌な予感しかしない! 嫌な予感しかしない! 行きたくない、母さん、お母さん」
「あら、みなさんおそろいで。じゃあ、一晩よろしくお願いいたします」
母は引率(?)の博美先生にぺこりと一礼した。ダメだ、博美先生を完璧に信用している。誰よりも危険人物なのに。信用するな! と叫びたいけど、それを言い出したら、教育委員会とかPTAとか絡んだ大問題になってしまい、博美先生の進退や人生の大問題に発展しそうなので、何も言えず、お口にチャック。でも叫びたい。
「いーやーだー!」
オレの叫びが廊下と玄関にこだまするが、三人はオレを乱暴に軽自動車の助手席に投げこみ、丁寧にシートベルトを締め、
「さあ、レッツゴー!」
帰宅部の合宿が始まってしまった。
カッコーン、と、日本庭園でししおどしが落ちる。
「ふふふ、嶋本君、もっとこっち来て。背中、流して欲しいな」
「いや、そういうわけにはいかないんで。超えてはいけない一線がオレと先生の間にありますよね?」
「一線を超えてしまったら、なにが起きるのかしら。嬉しいこと?」
「……少なくとも、嬉しくはないですね」
オレはぶくぶくと温泉の中に沈んだ。
よかったー、博美先生の知り合いの旅館の露天風呂は混浴じゃなかった。正確には「昼間は混浴の時間帯もあるけど、夜は男女別々だよ」というシステムだった。到着が午後五時を回っていたため、自動的に混浴はキャンセルとなった。
ゆえに、博美先生とオレは露天風呂の男湯と女湯を隔てる壁越しに会話していた。落ち着いた和風の旅館の露天風呂だけど、どうですか、壁越しでもかなりヤバイ感じじゃないですか。そんな感じしますけど。この木の壁一枚がとてつもなく頼りなく思える。博美先生の勢いを殺しきれなくて仕方なく、同時刻に露天風呂に入るはめになったけど、不安で仕方がない。なにせ、車で生垣に突っ込むようなひとなのだ。壁を突き破って「背中流して」と現れても不思議はない。だからオレは、
「じゃあ、お先ですー」
と言って、早々に露天風呂を撤退した。女湯からなにやら声がしてたけど、完全に黙殺。急がないと、平岡が入ってくる。いま平岡は旅館の女将と卓球をやっている。オレたちを迎え入れた女将は平岡の涼しげな容貌がえらく気に入ったらしく、「晩御飯の前にぜひ一回」ということで誘われたのだ。平岡はオレと一緒に風呂に入りたそうな空気を漂わせていたが、オレとしては今晩、平岡と同じ部屋で寝るというだけでもう緊張感でチビりそうなのに、一緒に風呂になんて入れるわけなかった。いや、オレは同性愛を批判してるわけじゃない。正直に言うと、「三人の誰とも一緒にお風呂に入るのはイヤだ。」だって、あのひとたち、なにかをする気満々なんだ。なにかってなんなんのか、漠然とした想像でしかないけど、いまはまだ想像でいいです、妄想でいいです。『大人の階段』はもっとちゃんとあがるつもりなので、(少なくとも魔法のステッキ的な)「ハーレム天国だお♥」で階段を上るつもりはなかった。
――ジブリール、温泉ダイスキだお♥
露天風呂でご機嫌の天使から一方的なテレパシーが送られてくる。
――いい機会だから羽根をのばすお♥ まだまだ入ってるお♥ 夜中まで入ってるお♥
クソ天使が一時的にでも離脱してくれて良かった。ちょっとだけストレスが減る。
オレは浴衣姿で男湯を出て、フルーツ牛乳を買い、百円のマッサージチェアに横になる。はー、疲れた。今日一日で、一年分は疲れた。
マッサージに癒されて、少し立ち直ってきたオレの視界に、
「水野」
風呂上りらしい、ショートカットのうなじが濡れた水野が飛びこんできた。浴衣ではなく、白い無地のTシャツに短パン姿だ。レアな浴衣姿を見てみたかったな、と邪念が動いたけど、こうしてみると、Tシャツでもやっぱりかわいい。ああ、オレは本当に水野のことが好きだったのに。
クソ天使のせいで、もう永遠にかなわない初恋だよ!
そんな眼の幅涙を流しているオレの胸中も知らず、水野は、表情を明るくして駆け寄ってくる。
「嶋本、お風呂上り?」
「ああ。水野も?」
「うん。博美先生は露天風呂へ行ったみたいだったけど、わたし、露天が苦手で。お部屋のヒノキ風呂に入ったの」
「へえ、部屋風呂がヒノキなのかあ。そりゃいいなあ。オレもあとで入ろっかな」
いいながら、なにげなく視線を下に動かして、オレは二度見してしまった。
水野の美乳の胸元。白い無地Tシャツをほのかに色づいたふたつの突起が押しあげている。
「なんかかゆいな」
そう言いながら、水野は尻のほうの短パンの裾をめくる。明らかにビキニラインを越えてもパンティが見えない。とゆーことは、
――ノーブラ、ノーパンか?!
浴衣姿以上の隕石が落ちてきた。もう水野が正視できない。ていうか、なにも正視できない。ダメだ、なにをみても、あの突起を思い出してしまう。やべえ、鼻血出る。これは出る。なにかが出てしまう。あわてて鼻の付け根をおさえて下を向く。
なのに、
「どうしたの、気分悪いの? 湯あたりしたのかな?」
水野は腕に胸を押しつけるようにオレによりそい、しがみついてくる。
こ、これは、ヤバイ、ヤバ過ぎる。博美先生も積極的で身の危険を感じたけど、水野の場合は、自分の理性の限界を感じる。好きな子が、湯上りで、ノーパン・ノーブラで、なんか腕にちょっとだけ固いものが当たる感触があるような……。これってもしかして、もしかすると、もしかしますか。
――ハーレム天国だお♥
ここが天国ですか。そうですか。予想以上に、すさまじい展開ですね。正直、もうあとどれくらい我慢できるか、自信がなくなってきた……。こらえなきゃならないとわかっていても、身体が勝手に反応してしまう。
「み、水野」
オレはかろうじて水野の肩に手を置き、距離をとろうとした。が、逆に、猫が擦り寄るように、水野がオレの手に頬を寄せてくる。
「嶋本……」
「水野」
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ! もう脳内で危険を知らせる赤色灯がブワンブワン回ってるけど、止められない! だって、水野だから! だってオレだし!
「ん? ふたりとも風呂上りか?」
天国で鬼、地獄で仏、喜ぶべきか悲しむべきか、卓球を終えた平岡が男湯へやってきた。近づいていた水野がぱっと離れる。よかったー、博美先生みたいにガンガン来るわけじゃないようだ。だが平岡のおかげで助かった。一線を超えてしまうところだった。危ない。てか、一線って、けっこう頻繁に容易に超えそうになるもんだな。もしかして意外と細いのかな、オレの理性が。
いや、そんなわけねー。オレは(ドリトル先生のように)紳士的で良心的な人間のはずだ、やっぱこの状況がおかしいのだろう、きっと。
そんなオレの内心の問答を知らず、平岡は「部屋に晩御飯の用意ができたってさ」と教えてくれた。やったー、お宿のご飯だ、唯一の楽しみだ。正直、平岡と二人きりというのも、なんだかイヤな感じ(もちろん、平岡のことを嫌いになったわけではない)だけど、ご飯の間くらいは大丈夫だろう。オレは今晩はひとりで寝るつもりだった。まだ平岡には言ってないけど、実は平岡の卓球の代償として女将さんにもう一部屋用意してもらっていた。今晩はそっちで寝よう。あの部屋――オレが泊まることになっている部屋――三人の誰かがいつ襲撃してくるかもしれないデンジャラス・ルーム――で浴衣で寝るなんて、ライオンとハイエナとハゲタカが行きかうサバンナで全裸で両手に生肉持って立っているようなもんだ。
この合宿で、オレの理性が試されてるかもしれないけど、オレ以上に三人の理性が試されている。そしてその理性はまったくアテにならなさそうだった。オレも一線超えそうになったけど、三人はもう積極的に一線を超えようとしてくる。「白線の内側までおさがりくださーい」という駅のアナウンスの幻聴が聞こえた。そうだな、やっぱり学生たるもの、線を超えてはならないだろう。少なくとも、魔法のステッキの効果では。
山間の旅館ということもあり、晩御飯の刺身は脂ののったマスのお造りだった。あと、地元のトロロとか牛肉の陶板焼きとか作りたての豆腐のお味噌汁とかが並び、見た目にもお腹的にも大満足の一食だった。
そして、晩御飯が済むと。
「ちょっ」
オレはつばを飲みこんだ。何も知らない仲居さんが敷いてくれた二組の布団。仲良く並んだその布団を、平岡がひっぱり、ピッタリとくっつけた。枕も。
「いや、ちょっと待て、近すぎるだろ」
いくらここでは寝ないとはいえ、やりすぎだろ、これは。第一、このくっつけた布団で平岡はどうやって寝るつもりなんだ? 並んで寝るのか? ホントにそれだけ?
「し、嶋本」
平岡が珍しくあせったように声を詰まらせ、布団の上に正座する。どうやら、オレにも座ってもらいたいらしい。なら、まず、
「布団を離そうぜ、これはないだろ、ははは」
と軽く笑いながら、五十センチほど布団を離す。心なしか、平岡の表情が曇る。が、気にしていられない。気にしていたら、オレの負けだ。オレは離した布団の上に座る。
オレは平岡が大好きだ、本当に大好きだ。世界で一番信頼してる(お母さんはオレを博美先生に売ったのでもう信用できない)けど、それはそれ、これはこれだ。平岡もつらいかもしれないけど、オレだってつらい。
なにが悲しくて親友と正座で向き合うはめになるんだよ? 平岡は博美先生や水野のように肉体的接触はしてこなかった。それが救いだけど、その代わり、なんだかダラダラ汗をかきながら、オレを見て、一生懸命話す。
「し、嶋本」
「うん?」
「あ、あのさ、あのさ」
「なんだよ」
まるで告白みたいな雰囲気だな。そう思って気づく。
違う、「みたい」じゃない、これは告白だ!
やべえ、聞いちまったら、もう二度と一緒にいられなくなる! 話すこともできなくなるだろう。オレはあわてて立ち上がろうとして、足がしびれて動けないことに気づく。日ごろから運動していないオレの足は生まれたてのチワワのようにプルプルと震えていた。オレは立ち上がるどころか、
「うわ!」
布団に横倒しに倒れこんだ。なにを考えたのか、身を乗り出す平岡。ちょっと待て、おまえ近い、近いよ! 告白じゃなかったのかよ、物事には順番があるだろうが! 順番を守れ、いや、守るな、やめろ、その線は超えるんじゃねえ! 「白線の内側におさがりくださーい」と脳内の駅員がまた平坦につっこんだ。けど、足が動かないオレはのしかかられても、
「ひ、平岡?!」
悲鳴をあげるのが精一杯だ。もう無理か、無理なのか。親友、続けられないのか。イヤだ、こんなのはイヤだ。クソ天使のクソ魔法で無二の親友をなくしてしまうなんて、オレのなにかが奪われてしまうなんてイヤだ。
イヤだ!
そのとき、
「嶋本君!」
勢いよく、引き戸が開けられた。胸の谷間も露な浴衣姿の博美先生が乱入してくる。いや、博美先生だけじゃない、
「嶋本!」
相変わらずノーブラ(瞬間的に思わずチェックしてしまう男の悲しい性(さが))の水野もなだれこんできた。
「さあ、一緒に寝ましょう。先生のと・な・り・で」
「わたし、体温高いの。きっとくっついて寝ると気持ちいいと思う」
「嶋本、オレはおまえに話したいことが」
三人はオレの浴衣をひっぱりながら、口々にわめきたてる。オレは過去の記憶が走馬灯になって青ざめて大声をあげる。
「やめろー! またオレに臨死体験をさせるつもりかー!」
「嶋本君!」
「嶋本」
「嶋本、ていうか、静流」
「先生、手を離してください。胸、胸が見えちゃいます! 水野も腕をつかむな、うっかり触っちゃうだろ! 平岡はどさくさにまぎれて下の名前で呼ぶんじゃねえ!」
二組の布団の上で四人が団子状態で転げまわる。もう誰の腕がどこにあるのか、まったくわからない。ツイスターゲームと大玉ころがしを混ぜ合わせたような状況だ。と、次の瞬間、
「ギャー!」
誰かの足が、勢いよくオレの股間を踏み潰した。視界が赤く染まる。オレは股間を押さえて転げまわった。さすがに襲っている場合ではないと伝わったらしく、三人が少し距離をとる。
「大丈夫? 嶋本君、パンツ脱いで。先生が看るわよ」
「嶋本、わたし、そこをなでて、痛いの痛いの飛んでけってやるよ?」
「しず、いや、嶋本、傷は浅いぞ、しっかりしろ」
「……もう、もう限界だ……」
オレは生命の危険を感じて、ぐっと目を閉じ、それから痛みをこらえて叫んだ。
「ジブリール、てめえ、『いい湯だな』をいつまでもやってるんじゃねえ! どうにかしねえと、ボスに次に会ったときに、なにがあったのか全部ブチまけるぞ!」
「それは困るんだお♥」
白光一閃。バスタオル巻き姿のジブリールが天井から舞い降りると同時に、白い光が部屋を満たし、三人が次々に倒れる。
「おい、これ、死んでないだろうな?」
限度・程度というものを知らない天使に念のため、確認する。湯上りでほかほかの天使は上機嫌で、
「気絶しただけだお♥ こっそりそれぞれの部屋に戻しておけば、明日の朝、目が覚めるお♥」
と言った。オレはタオルからはみでそうな爆乳から視線をそらし、首を振った。
「死んでねーなら、いいや。オレが出ていくから」
三人にはまとめて同じ部屋にいてもらおう。そのほうが安心できる。風邪を引かないよう、オレは三人に毛布と上掛けをかけてまわり、それから、
「……ひでえ目に遭った。死ぬかと思った。もう寝る」
と宣言して、股間を押さえながら女将が用意してくれた別室へむかった。
なにが「これからキミの混浴♥ ハーレム天国が始まるお♥」だ。やっぱり「混戦(ドクロ)ハーレム地獄(死亡フラグ)」じゃねえか。ホントもう、いい加減にして欲しい。
オレが横になったかたわらでジブリールが「で、ボスには黙っててくれるお? ナイショのことにしてくれるお?」としきりに確認していたが、オレはもう聞いていなかった。聞いてられなかった。寝よう。
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