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「助けてくれてありがとう。ほんとにありがとうっ。オレもうダメかと思って絶望してた。気づいたら見知らぬ森の中にいたんだけど、オレにはここがどこだかさっぱりわかんなくてさ。小川で水は飲めたけど食べ物は見あたらないし捕まえられそうな動物はいないし、この森いったいどうなってんの?」
ミ~ミ~ニ~ニ~
オレは魅惑の子猫ヴォイスを連発した。これでもかというほど銀狼に浴びせてやった。
とにかくここは全力で可愛いアピをすべきだ、とオレの生存本能も力説してるし。
やっぱり銀狼もオレが何を言ってるかわからないのだろう。しばらく神妙な面持ちで耳を傾けてくれていたのだが、そのふさふさな耳を少し下げて首をかしげてきた。心なしか困ったような申し訳ないような顔。でっかい図体にしおれた雰囲気。…ちょっと可愛い。
「やっぱりダメか…」
あぁ…とオレはうなだれた。
危機的状況を回避できた安堵からか、また空腹感がもどってきた。くぅぅ、と腹の虫が鳴る。
小さな音だったけど、ピピッと銀狼の耳が揺れた。やだ聴こえちゃった?
「そうなのオレ腹減ってんの。なにか食べたいの。食べ物。わかる?」
ふたたびミ~ミ~鳴いて見せると、しばし考え込む様子の銀狼。そしてなんと。その巨体がしゅるるるると縮みはじめたではないか。
おおお? と目を見張っていると、とつぜんパアッとまばゆい光。思わずギュッと目をつむるオレ。
光は一瞬だった。おそるおそるまぶたを開けると、銀狼はすがたを消していた。代わりに男が一人立っていた。
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