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─── その日は朝から落ち着かなかった
クレールの森の統治者・アランは、心ここにあらずといった風情で朝議の間に姿を現した。
カツカツと足早にブーツのかかとを鳴らし、指定席である王の椅子にさっと腰を下ろすやいなや、すぐに重要な案件のみ報告を求める。その目は虚空をにらみ据えたままで、誰とも目を合わせようとしない。
普段の様子とはかけはなれた余裕のない雰囲気に、朝議に出席しているものたちは何事かと顔を見合わせた。
「王よ、一体どうされたのです?」
数件の報告のみに耳を傾けすばやく指示を飛ばし、すぐに朝議を切り上げた王に、腰を浮かせた山羊の角をもつ重臣・ザラスが静かに問う。
すでに扉の前まで来ていたアランは足を止め、神妙な面持ちで振り返った。
「今朝目を覚ましたときからなにやら胸騒ぎがする。…森のようすを探りに行ってくる」
めったなことは口にしない慎重な王の不穏な発言に、重臣たちはいっせいにざわめいた。騎士団長である屈強な熊の獣人・ガレウスが一歩前へ進み出る。森へ探索隊を派遣しては、との騎士団長の意見を、しかしアランは即座に却下した。
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