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なぜツガイのいないオメガがここに、と思うが、全身が麻痺したように気だるくなり、力が入らない。立っていられずソファにぐったり身を沈めると、メイドがふらふらと近づいてきた。
「大丈夫、で、ござい、ますか…?」
「……出ていけ…」
力ない声に大胆になって、メイドがさらに近づいてきた。紅潮した頬と潤んだ瞳はうっとりとアランを見つめており、歩み寄りながらこちらへ手を伸ばしてくる。
許しもなく王に触れるなどあってはならないことだが、アランのヒートにあてられたメイドも理性を失っているようだった。
「私にさわるな…っ」
にらみつけるが誘惑香により力が入らず、メイドの華奢な手が振り払えない。
アランは歯をくいしばり、なんとか意識を明瞭に保とうとした。ツガイたい相手はヒロキだけなのに、体が、本能が、いうことをきかない。メイドの息づかいを近くに感じ、ギュッと目を閉じ顔を背ける。
「────ウゥゥヴ…」
うなり声が聞こえたとき、アランははじめ、自分の声だと思った。無意識に抵抗しているからだと。
けれど違った。
ずしり、と胸の圧迫感に目を開くと、かすむ視界の中でヒロキがメイドに向かって毛を逆立てていた。アランの胸に乗り上がり、至近距離からシャーッと相手を威嚇する。
「マアアアァオッ!」
普段の人懐こい姿からは想像もできない激しさだった。ヒロキが激昂するところなど、これまで一度も見たことがなかった。
先程までの弱々しさは微塵もなく、全身に力をみなぎらせ、メイドを鋭く睨み付けている。
ヒロキの勇ましさに驚いた次の瞬間、その声は唐突に、鮮明に、アランの耳に飛び込んできた。
パアッと光が炸裂する。
「アランにさわるな……ッ!」
───目を見開いたアランの視界を、まばゆい光がおおいつくした──
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