夏のアンコール

1/1
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

夏のアンコール

 これは肝を冷やす話だ。  梅雨は湿気でじめじめとした空気。雨の独特な臭いもする。肌に張り付いてくるようなべっとりとした感覚。それが好きだという輩の気持ちはわからない。  曇り空が増えて過ごしやすいことは良いかもしれないが、怠ってはいけないのが紫外線対策だ。体は抵抗力が弱まり、年間で紫外線量が多いことを知る人が少ないから尚更だ。日焼け止めを適量塗りたくるといい。  梅雨が明けるとじめじめとした感覚は消え、代わりにじわじわと暑くなってくる。この辺りから世の中は海開きをしてプールや海水に飛び込むんだろうな。  夏場は水難が多い。自己保全能力を身につける為に、着衣水泳なんかの授業や講演は忘れず参加することだ。  祭や海、キャンプなどアウトドアな動きがよく見られる。日射しが肌を痛いくらいに差して、まるで針で刺されるようだ。  こうも暑いとかき氷か何か冷たいものを食べて身体の芯までひんやりとさせたいものだろう。  しかしかき氷じゃ冷えない真夏は暑くて暑くて、無性にむしゃくしゃする。そういう時はアレをヤルんだ。  筋を切り離し中からズルズルと引っ張り出す。皮も根こそぎ剥ぐ。  塩を振りかけて臭いの根元を払い出して、酒水に沈めて。それから水分を拭き取る。  ラップでぐるぐる巻きにしてアルミホイルも巻き付けて蒸していく。  安全ピンを刺して熱が通っていることを確認すれば完成だ。  いや、まだだ。これが重要なんだ。コレを忘れると今までの行程がパーになる。  もう分かるだろ?  ーー冷やすんだよ。しっかりと身を引き締めるんだ。  アンコウの肝。アン肝を。  最後に冷やさないと形が崩れて非常に見映えが悪い。料理は味も勿論だが見た目も大事だ。  このアン肝がビールと良く合う最高のつまみなんだ。冷えたビールを飲み下してすぐさまアン肝を頬張る。それからまたビールを口に含む。すると口の中でアン肝が盛大にフィーバーする。  アンコウの旬は冬だが、夏のは脂が乗っていてウマイし安く手に入る。  冷たいビールをがぶ飲みして身体を冷やす。真夏は毎年コレで乗り気っている。  肝臓は沈黙の臓器と言われている。毎年このペースじゃ気付かずそのまま沈黙しそうだ。  ーーどうだ? 肝が冷えただろ?  END  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!