海月の話#1話。【フワリ、フワリ、フワフワリ】

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「コウは…本当に記憶が無いんですか」 「えぇ、…そうみたいです。自身の事はかろうじてわかるようですが……」 「そう、ですが…」 コウの目がこんなにも怖いと思ったことはない。 怖い、辛い、悲しい。 「こんにちわ…」 「コウの母さん、父さん」 「ゆきくん、見ていてくれてありがとうね。」 「いえ、とんでもないです。」 「…恒樹…!」 コウの両親は共働きで夜遅くまで働いている、だから俺を頼ってくれたらしい。 「母さん…父さん…」 か細く、か弱くなった声。昔とまるで違う。 いつもより数段重くなったように感じたドアを開ける。 物静な夕日に照らされた。見覚えのある横顔が浮かぶ。 崩れ、ベットの足元にすがり付くようにコウの手を握る母さん。 父さんは俺の隣で目を隠している。 隠しきれなかった涙が頬を伝って真っ白な床に落ちた。 コウが、無機質のように母の手を握り微笑む。 「母さん」 まるで人形のようにこちらをみたコウは息を吐くように。 「父さん」 「心配かけて、ごめんなさい。」 ふわりと包むような声だった。 でも、コウの目には、俺は赤の他人だと言うように写っている。 辛い、痛い…。 「コウ、コウキ。」 「…はい。」 「俺の事は…覚えてないのか…」 「…すみません…。」 「い、いいんだよ…別に、」 「でも、毎朝、声をかけてくれてましたよね。コウって。」 「それは…」 「あれのお陰で名前とか家族とか、きっときっと忘れずに居られたんだと思います。」 「…。」 「きっと、僕の忘れちゃいけなかった人なんですよね」 「…そう…だよ…」 「…。」 「…でもさ…、っ…きっと…思い出してくれるよ、な…」 「努力はします…」 「…ありがとう…」 「あ、えっと…」 「…ごめんね…急に泣いたりして…幸斗だよ、逆井幸斗」 「幸斗くん、だね。ちょっと来てくれないかな。」 「…どうしたの?」 柔らかく微笑んだ彼は、優しく俺の手をつかんだ。 「これきっと、幸斗くんのだよね?」 青いくらげがコウの手からふわりと舞い降りた。
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