日課になった温度

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足が縺れた。 新入社員の僕には上司との酒の席が憂鬱だった。 好奇心旺盛の僕の意欲を、快く思った上司が僕を気に入った。 有難いことだ。 気に入られる事程、やりやすい空間は無い。 今までもそうだ。 小学生から大学生まで、僕は先生に好かれることを優先に授業を受けた。 無論、その方が成績が良いからだ。 今回も同じ事だった。 上司に好かれる為に、上司にとって最も正しい部下を演じたまで。 ……それがどうも裏目に出た。 気に入ってもらえたのは良いのだが、上司の好き方はどうも過剰だった。 カラオケ、パチスロ、居酒屋、居酒屋、居酒屋居酒屋居酒屋居酒屋居酒屋居酒屋居酒屋居酒屋居酒屋居酒屋居酒屋。 最近は毎日晩を共にしている気がする。 「これが収まる日は、きっと捨てられるって事なんだろうな」 地面の冷たさを服の上から感じながらそんな事を思う。 暫く這いつくばった後、覚束無い足で家へ帰った。 「おかえりなさい」 出迎えたのは同棲中の彼女だ。 上司の事を彼女に話した時、彼女はただ一言、 「大変だったね」 と、言ってくれた。 そしてソファに横になった僕の額に、何も言わず氷水を当てるのだ。 既に日課になった彼女の優しさに、僕は全てを委ねた。 氷水を退かす手と僕の目を塞ぐ手が見えた。 日課になった上司との晩。 日課になった彼女の言葉。 ただ、氷水で冷え切った額に当たる柔らかい感触は、日課になっても分からないままでいた。
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