烙印

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毎日泥まみれになり 大雨に泣き、日照りに泣く僕の仕事を 大きくなった弟は手伝うこともなく 陽の柔らかな日に、羊たちを野原に連れだし、 のんびり寝転んだり、歌を歌ったりして過ごしている。 後から生まれた弟も妹たちも この弟に懐き、いつもまとわりついては笑っている。 そのたびに、僕の胸の中に黒いものが駆け回る。 この感情はいったいなんだろう。 アイツサエ イナケレバ。 とうさんやかあさんが弟に微笑むたびに、 強い日照りや嵐に作物が落ちるたびに 弟の姿がこの目に入るたびに 胸の中の黒いものが、大きく大きく膨らんでゆく。 それはとても苦しく痛い物であったけれど 妙に冷たく、気持ちの良いものでもあった気がする。 そんな僕の心のうちも知らぬげに、 弟は僕の方を見ると、無垢な美しい顔で微笑む。 アイツサエ イナケレバ。 僕の中でまた、麦の穂を散らす風よりも強い嵐が巻き起こる。
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