王女様がさらわれた

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 激しく揺れる馬車の中で、目隠しをされた私。平衡感覚もおかしくなってきて、不安よりも苛立ちが募ってくる。  何なのこいつら? 私をさらうことが目的なの? でも、何のために? 理由がわからないわ……。 「何が目的? 私をさらったところで、戦略的な価値など無いに等しいわよ!」  強い口調で、気丈に言い放ったものの、そのセリフが情けない。そんな自分が情けない。私は、人族の支配する東の大陸トラビスにある小国、ロシュフォル国の王女。しかも三女だ。ロシュフォル国は、トラビス大陸にある十一の王国の中でも最弱。政治的影響力も何もない。なんで、そんな小国の第三王女である私をさらおうとするのか。もしかして、この容姿かしら……。そもそも、私ってそんなに有名? 実は、各界に私の根強いファンがいるとか? 確かに、他国の王族、貴族からの求婚は多い方だ。でも、それはわたしが王女であるからで、そんなに特別美しいからというわけでもない気がする。  はっ!! まさかの人身売買系? それならば、若いし、可愛いし、かなりイイ金になるかもしれない……。少し納得……。でも、そんなの最悪だわ……? 「私を売り飛ばそうとか考えてないわよね。仮にも一国の王女にそんなことしたら、大罪よ! わかってるの?」  誰も何も答えない……。それとも、人語を解さない下等な獣族や亜人族の類? だとしたら、私どうなっちゃうのかしら?? もう!! とにかく、誰か答えなさいよ!! お尻も痛いし、もはや我慢の限界だ。 「ちょっと! 答えなさい!! 責任者はいないの!?」  大声を張り上げる私。  ごそりと音がして、荷台を覆っているであろう何かが開けられたのだろうか、涼しげな風と共に、外の音が少し鮮明になった。荒地を走る車輪の音。馬のいななき。風にそよぐ木々の葉。ここは、森の中ね……。それと、せせらぎ? 川の近くを走っている? 「ちっ……。なんだぁ!? 少しくらい我慢できねぇのか」  品性の欠片もない、野蛮な感じの声。荷台が軋む。近付く足音に重量感がある。筋骨隆々で、頭の弱い髭ズラの男だきっと……。しかも、なんとなく獣臭い……。 「あなた誰? 責任者??」 「あぁ? 責任者ってなんだ? うるせぇ、王女様だな」  声を発した男が、にじり寄ってくる気配を感じる。  ギシリ……    荷台が軋んで、少し傾く。私の足元に膝をついた……。男が、覆いかぶさってくるような圧迫感。必死に身を強張らせる私。そして腰のあたりに、何かが触れた……。
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