王女様がさらわれた

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 なぜ、獣人なんかが……?  まともな獣族ならば、滅多に人族の領土に入り込んできたりはしない。国を追放された人族の輩とつるんで、この辺一帯を荒らし回っている盗賊の一味といったところだろう。  男が入ってきた状態のままなのか、幌の前が開いている。そこから、もう一人、馬を駆る男の後ろ姿が見える。艶のある皮の鎧を纏った大きな背中。その後ろ姿は、かなりの大男。人族の大男と比較しても、その倍以上はあろうかという巨漢。眼帯をしている? 眼帯をした熊並みの大男……。こちらも獣人。  城内で私を担ぎ上げたのは、おそらくこの大男だろう。どうりで唯ならぬ高低差を感じたわけだ。そこだけは、しっかりと体が覚えている。天地がひっくり返ったと思ったじゃない……。  他には、あと何人いる? 目が暗がりに慣れてきたけれど、……誰も見えない。気配もしない……。  二人? たった二人? 我が城は、たった二人に侵入されて、私はさらわれたの? そんな、馬鹿な!? あり得ない!! それとも、こいつら相当の手練れ?  あの巨漢。唯ならぬ風格と威圧感を感じる……。獣人で眼帯の大男といえば……、獣将軍ベアクレスの名が真っ先に思い浮かぶけど……。  まさかね、そんな大物が……。たった二人で、こんな馬車に乗って人族の領土、しかもその王国の城内に侵入してくるわけがない。  いや……でも、本物のベアクレスが城内にまで侵入してきたら、それはかなりビビるでしょう。流石の衛兵たちも、縮み上がって手も足も出ないんじゃないかしら……。でもだからといって、王女がさらわれるのを、みすみす見逃すってことはないでしょう!? たぶん……。 「ドスラクは、もう越えたか?」  荷台の男が、手綱を引く大男に尋ねる。 「はい。今しがた」 「よし。そのまま城まで急げ」  やっぱ、ベアクレスなわけないか。会話の様子では、この目の前にいる盗賊みたいな男の御者か子分か何かのようだ。と、思った瞬間……。  馬が何かを飛び越えたのか、激しい振動と共に荷台がふわりと宙に浮くのを感じた。幌が大きく棚引いて、夜風が吹き抜けると同時に、馬車の荷台の中を月明かりが照らす。私は横倒しにならないように、足を突っ張る。そして、舌を噛まないように、慌てて口をつぐむ。  ちらりと横目に見た荷台の男は、目を瞑ったまま動じることもなく。荷台の揺れに必死の私を見もしなければ、ましてや、支えようともしない……。  いったい私はどういう扱いなんだ?  ……それよか今、荷台に座る男の顔が、月明かりに照らされて一瞬見えた。なんか、すげー毛並みのいいイケメンだった気がする……。  イケメンだし、もしかすると、獣人の中でも高貴な出身なのかもしれない。 「あの……。あなたは?」  私は少し控えめに問いかけた。  だが……、何も答えない……。とことん、無視する気の様だ……。
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