王女様がさらわれた

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王女様がさらわれた

「王女様がさらわれたぁーーー!!」  城内の喧騒。家臣たちの叫び声が遠ざかってゆく。私は、何か荷台のような物に乗せられて運ばれている。  ドクン! ドクン!  突然の出来事に、高鳴り続ける胸の鼓動。  ドカカッツ! ドカカッツ!  胸の鼓動に合わせるように、鳴り響く音と激しい振動が、私の体を上下させる。  体は何かに覆われている。不自然な格好で身動きが取れない。深呼吸……。とにかく冷静さを取り戻そう……。  ドカカッツ! ドカカッツ! ドカカッツ! ドカカッツ!  規則的に鳴り響いているのは、力強く重厚な蹄の音……。おそらく二頭立ての馬車だ。リズムと加速感、一完歩がずいぶんと長い。馬車を引いているのは、かなり大きく強靭な馬たちなのだろう。その速度はグングンと増していくのを感じる。  少し気持ちが落ち着いてきたものの、何がなんだか分からない……。微かな記憶を頼りに、数分前の我が身に降りかかった出来事を思い返す。  他国の襲撃か、金品目当ての盗賊だろうか。いつのまにやら城内に入り込んだ集団が、衛兵たちの警備をすり抜け、私の私室に侵入してきたのだ。深夜の就寝時間だった私は、当然というか、私室で爆睡中だった。寝込みを襲われるとは、まさにこの事。目を開ける暇もなく、何かに包み込まれ、天地がひっくり返り、担ぎ上げられた。持ち上げられた高さの感じから察するに、かなりの大男。布に包まれて、もがく私をモノともせず、のしのしと城内を歩いていく。そして、そのまま城の外まで連れ出され、この荷台に放り込まれた。  抵抗や激しい攻防が繰り広げたれた感じも無かったが、我が城の衛兵たちは一体何をしていたのか? 私が運ばれていくのを指を咥えて見ていたのか? 深夜とはいえ、それほど手薄な城内とは思えないけど、あっという間の出来事だった……。  私を乗せた馬車は走り続けて、しばらく時間が経った。巧みに追っ手を巻いたのか、城の騎馬隊たちが助けに来る様子もない。このスピード感なら、既に我が国の領域外に出ているだろう。馬車の音は相変わらず一台のみのまま。別の仲間が合流する様子もない。組織的な行動ではないようだ。この馬車の中も、数人の気配しか感じない。他国の部隊にしては、少なすぎる。やはり、盗賊か何かとしか思えない。でも、どこぞの盗賊が、どうしてこうもやすやすと、城内に侵入できたのか……。  荷台の感触は比較的柔らかく、高級な馬車なのかもしれないが、それを引く馬の速度が半端ない。時折空中に浮いているかのような錯覚すら覚えるほど。しかも激しい振動が、お尻を刺激する。手も使えず、片方のお尻に体重を乗せて傾いたまま体制を変えられないのが辛い……。  全身は、何か布のようなもので簀巻きにされている。これが、ゴワゴワの布だったら最悪だったけど、幸い肌触りのいい布だ。曲がりなりにも王女としての扱いを受けているということだろうか? 目隠しはされているけど、猿ぐつわはされていない。もしかしたら、交渉の余地があるのかもしれない。 「……あなたたち……。何者なの?」  私の問いかけに、誰も答える様子は無い……。そもそも、私が誰だか分かっての行動なのだろうか? 「私を、ロシュフォル国の王女、アンジェリア・ロシュフォルと知っての行動?」  一応名乗ってみた。私が目的の確信犯であれば、このまま連れていかれてしまうけど、間違いであれば、逃してくれるかもしれない。そうだ、もしかしたら、ザラ姉様やレジーナ姉様と間違われている可能性もある。間違いでありますように……。  そんな願いとは裏腹に、私の言葉に誰も呼応することなく、馬車は軽快に進んで行く……。
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