獣王の城

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獣王の城

 ドスドスと低い足音が響く、静まりかえった宮殿の長い通路。物怖じせずに突き進んでいくこの男……。  あんた大丈夫なの? ここって、もしかして、獣王の城じゃないの??  そうは思いつつも、ここは獣族の領土。声を出すのも憚られる。人族の私がその城に足を踏み入れたと知られたら、なにをされるか分からない。男の背後で声も出せずに、じろじろと目だけ動かす。  すれ違うメイド達が、目を伏して頭を下げている。人族の娘など、見るのも汚らわしいっていうことだろうか? それとも、まさかこの男、獣王の親族の一人とか、それなりの身分だということだろうか?  それにしても、ここのメイド達……、みんな物凄いセクシーな服装……。ピチピチだし、はだけるというか、殆ど溢れる程に露出しまくっている……。しかも、なんでこんなにも獣族の女達は巨乳揃いなのだろう……。あんな強力な武器で迫られたら、人族の男たちはイチコロだろう……。この点は唯一、人族が獣族に敵わないところかもしれない……。  長い廊下をしばらく突き進み、奥の大広間に入った。広間には、いくつもの太い石柱が並ぶ。暗がりで周りの壁は見えないが、とにかく天井が高い。人族の建てた宮殿にも引けを取らない高度な建築技術だ。視界に入る壁には、巨大な斧や槌などが美術品のように並んでいる。獣族と共に暮らす亜人族の中には冶金術に長けた種族もいると聞く。入り口の大きな扉には、見事なまでに美しい装飾が施してある。この広間は、獣王との謁見の間といった所だろうか。  広間に入るなり男は、肩に担いでいた私をお姫様抱っこに持ち替えた。男の分厚い胸板に抱きかかえられる。汗臭さと獣臭の入り混じった複雑な匂いだけど、それほど嫌じゃない……。そのまま視線を上げると、男の顔がすぐそばに。思わずドキリとしてしまう私。獣族ながら、見れば見るほどいい男……。心なしか風格すら感じられる気がしてきた……。初めて殿方に抱っこをされたけど、なかなかイイかも……。しかも、イケメンで逞しい男……。不覚にも、そんな事を考えてしまった……。  男は、そのまま広間の奥へと進んでいく。そして、ソファーのようなゆったりとした所に、私をそっと置いて座らせた。  さっきと打って変わって、ずいぶん丁寧な扱い……。  これは、獣王様への貢物確定だ……。獣王様は、この私をどうするつもりかしら……。  バア~~ン!!  勢いよく扉を開く音に、びっくりして顔を向けた。 「ギルバート様ぁ!」  ハートマークがつきそうな、女の子の呼び声。私と同い年くらいだろうか? 猫耳の女の子が、手を広げながら満面の笑みで、こちらに向かって駆けてくる。  猫耳の女の子は、駆けてくるなり、かなり離れた距離で飛び跳ねる。そこから高度もなく自由落下も使わずに、直線的に一っ飛びで、私を担いで運んできた男に抱きついた。  ものすごい身体能力……。獣族恐るべし……。 「こら、はしたねぇ。ミア、離れろ」  そんな男の言葉を無視して、ミアと呼ばれた女の子は、男に頬擦りしながら、その首筋にギュッとしがみ付いている……。  しかも、ギルバート様って……。  ギ……、ギルバート!? ギルバートォォ!!!  ここってたぶん、獣王の城だよね? え、それってつまり、ギルバートって? 獣王ギルバート様のこと!?
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