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最終日閉店後。 お世話になったスタッフ全員に挨拶をし、首周りのタオルを外そうとした俺は、まだうっすらと痕が残るキスマークの存在を思い出し手をそっと離す。 この痕を付けた相手に次会った時、何て言ってやろうか。 この数日、そうずっと考えていた。 「高遠君も今日までですよね?僕も今日までなので東京まで車で送りますよ」 疲れを感じさせない笑みを浮かべ紫澤はそう提案した。 「ありがとうございます。でも、迎えが来るので」 軽く会釈をすると、俺は待人がいるであろう場所まで一目散に海岸沿いを走り出す。 生温い風に乗って潮の香りが鼻腔を擽る。 いつもは顔を顰めるその香りも、今夜に限っては心地好く感じた。 やがて、よく見慣れたボックス型の黒い高級車が路肩に見える。 「お疲れ様」 車の外で待っていた男から笑顔で労いの言葉を掛けられた瞬間、伝え様としていた言葉全てが飛んでしまう。 「帰ろうか」 続けて掛けられた言葉に、俺は思わず翔琉の黒いTシャツの裾を俯きながら引っ張る。 「……まだここにいたい。翔琉と夏っぽいことしたい。2人だけの思い出……作りたい」 自分でも予想外の言葉が、次々と口を付いて出る。 「颯斗……」 一瞬翔琉は驚きの表情を見せたが、すぐ様ニヤリと笑みを浮かべる。 「……翔琉の傍にいたいんだ」 「承知しました」 翔琉はそう答えると、嬉しそうに俺を抱き上げ唇にキスをした。 その瞬間、俺たち2人のサマータイムは夜の海で静かな情熱を秘めながら始まりを告げたのであった――。 END
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