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オレのナカからズルリと抜け出て、嵩彦が隣に寝転がる。お互いに息が上がり、しばらく無言が続いた。最初にそれを破ったのは嵩彦だった。
「何で…地元を離れたの?」
「……地元ってか、お前から離れたかったんだよ。お前は千石の跡継ぎだから、オレを追っては来れない事は分かってたからな」
「僕の事を好きだったんだよね?」
「ーーーあぁ…」
だから離れたんだ。
あの時「オレも好きだ」と答えて何になった?
お前は高校卒業と同時に千石家の当主襲名が決まってたじゃねーか。由緒ある家の跡継ぎが男とデキてますなんて、シャレになんねぇだろ。両想いだと浮かれても、卒業と同時に別れがやってくる。喜ばせといて突き落とされるような……そんな仕打ち、オレが耐えられない。嵩彦も早くオレを忘れた方がいいーーー、そう思って街を出たんだ。
「諒太はバカだよ」
オレが全部話すと、嵩彦がさらりとそう言った。思わずカチンときて身体を起こすと、嵩彦が真剣な顔でオレを見詰めていて、言い返したかったのに言葉が続かなかった。
「僕はちゃんと考えてたよ。卒業して総代を継いだら、まずは世間的地位を手に入れる。それに伴った収入を確保する。周りに愛想も振りまいて味方を作る。諒太の家族とは特に親しく…かつ信頼を築くよう最大限の努力を惜しまない。跡継ぎは残せないから代わりの弟子を育てる。それから、なるべく早い段階で自分の家族にカミングアウトして、直ぐには無理でも理解してもらうようにする。最後に、時期を見計らって世間にカミングアウトするーーー、これが俺の計画」
つらつらと、カンペを読むみたいに長い台詞を連ねる嵩彦。どんだけ先の事まで考えてたんだと呆れるばかり。でも、十年前の告白はただの高校生の無謀なだけの物ではなく、起こり得る苦難を全て見越した上でのものだったのかと思うと、呆れる反面、泣きたいほど嬉しかった。
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