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再び会場がどよめいて、それから司会者がより詳しく聞き出そうと進行を始めた。
『千石さんは確か……ご自身の恋愛対象をカミングアウトしてましたよね?』
『はい。ですのでその片想いの人も、僕と同じ男性です。その人には十年前に告白しているんですが、その時は振られてしまって…でも、諦められなくて…』
『てことは、十年も片想い!?すごいですね』
『そうなりますか。すごいと言うより、しつこいですよね。一応この歳なので、それなりに他にもお付き合いさせて頂いた方もいます。でも、やっぱりその人の事が忘れられなくて……結局は別れてしまうんですよ』
『一途ですね!いいじゃないですか!』
『ありがとうございます』
『しかし、千石さんは既にカミングアウトしているので、今日ここで発表したい事というのは他にあるって思っていいんですか?』
『はい。実は最近その片想いの相手に再会して、もう一度告白したんです。今ちょうど告白から五日が経ちますが、もし一週間しても応えてもらえなかったら、さすがにもう脈は無いものと思って諦めるつもりでいるんです。でもーーー』
『もし、応えてもらえたらどうします?』
『……そうですね、もし応えてもらえたら…先ずは記者会見で報告した方がいいですかね?許されるなら、その人を紹介もしたいです。パートナーシップ条例のある地域に移り住むとか、同性婚が許される国で式を挙げるとか、色々妄想だけは膨らむんですけど』
『今更ですけど…これ、生放送で言っちゃって本当に良かったんですか?』
『構いません。振られたらこんな事を公言した僕が恥をかくだけだし、もし受け入れてもらえたら……そうですね、これは宣戦布告、とでも受け取ってもらえれば』
『宣戦布告、ですか?』
『はい。この人は僕のだから手を出すなって、宣戦布告です。あと、彼本人にも、もう逃がさないって意味で。僕って独占欲が強いんですよね』
『イケメンが言うと様になりますね!』
『お前が言うたらただのキモい発言やけどな』
関西弁の相方がツッコんで、会場が笑いに包まれる。でも、オレは知ってる。コイツが言ってる事は、冗談でも何でもない。本当に本気だ。
『その代わり、僕がこうして公共の電波に乗せて発言した事で生じるかもしれないあらゆるトラブルからは、僕が必ず守ります。大切な人なので、傷付けたい訳じゃないんです』
オレはぶつりとテレビを消した。
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