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オレはベッドに潜り込み、頭からシーツを被って目を閉じた。
あれがお前の覚悟?
何もかも告白して、世間の晒し者になるかもしれないのに。オレが応えるとは限らねーのに。アイツは本当に馬鹿なんだ。馬鹿で、馬鹿過ぎて、真っ直ぐで、正直で。いつだってその気持ちをオレにぶつけてきた。
「嵩彦のくせに…ナマイキなんだよ!オレの努力を簡単に超えんじゃねぇ!」
苛立ちのせいで横になっていても眠気は来ず、時々身動ぐ衣擦れの音しか聞こえない静かな部屋で、オレはただ息をして過ごした。今夜アイツが帰って来たら、何て言ってやろうかーーーそれだけを考える。ぶん殴って、詰ってやるだけじゃ気が収まりそうにない。
言ってやりたい事は山ほどある。
だから、早く帰って来い。
◆ ◇ ◆
どれくらい時間が経っただろう。
昼に見たワイドショーは確か一時とか二時とか、そんな時間に放送していたと思う。開けっ放しのカーテンから見える空は、もう夕焼けより深い濃紺の色をしていた。一月と言う季節を考えれば、多分五時前後。
隣のリビングの扉を開く音。そして、人の歩く気配。また神代かとも疑ったが、寝室のドアを開けて現れたのは嵩彦だった。
「………りょう、た…」
いつも言う「ただいま」はどうしたと、心の中で毒突く。
「テメェ…ちょっとこっちに来い」
オレが低く言い放つと、怯えたように肩を竦めた嵩彦が、おずおずとベッドに歩み寄って来た。
「何で…諒太、何でいるの?出て行かなかったの?」
「はぁ!?テメェがオレの服持ってっちまったんだろうが!バスローブもねぇし、素っ裸で出歩けるかっての!」
「ごめん。バスローブが無いのは僕が連泊中のルームサービスを断ってたからだ。でも、諒太の服はクリーニングに出してるだけだから、フロントに電話を入れれば持って来てくれたよ」
「………なッ!?あ、あぁ…確かにそうだったな…クソッ…しくじったぜ…」
よく考えれば分かる事じゃねーか。最初の晩、オレが酒に酔って吐いて、それでクリーニングに出してるって嵩彦も言っていた。
オレは出て行けない理由がある事にほっとしていたんだ…
あぁもう…認めざるをえねぇ。
十年経っても引きずって、忘れらんなくて、お前の為とか言って逃げてた事を。
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